もちろん今でも良く腹を壊す。深夜に泥酔してラーメンを食した翌朝など酷いものである。どのぐらい酷いかと言えば、ここに書けないほど酷い。
小学生の時分は、なぜか「大の方のトイレに入ると自動的にコミュニティの晒し者にされる」という厳格なしきたりがあり、大きな方をぶりぶりっと出していると、トイレの壁をよじ上って誰かしらが覗いて来たり、偉大なるウンコマンの誕生、登場を大勢で迎える。というのが流行していた。
もちろん、俺もその偉大なるウンコマンとして降臨したこともあれば、尊大なるウンコマンを迎えたこともある。
やがて中学生になり、異性への興味が花開く年頃になると、さすがに男子のウンコマンへ対する興味、情熱も薄れていくのだが、今度は授業中に腹が痛くなってしまった場合、好きな異性の目の前で「ちょっとトイレに……」と手を挙げて行くのが恥ずかしいという、なんだか今の日本人が忘れてしまった、恥じらいにも似た初々しい事態に直面するのであった。
そう言えば、中学の教師に「ウンコに行きたい」というと「あと10分で終わるから待てないのか」と言われた記憶があるが、そもそもウンコを我慢出来ないからわざわざ手を挙げているわけで、終業まで待てる奴が「ウンコしまーす!」と手を挙げるわけが無いのである。思い出したら腹が痛くなって来た。
そうした甘酸っぱい春色の青春も終わりを迎え、受験の後、俺は男子校に入学するわけであるが、男子校と言えばもともと肥溜めみたいな場所であるので、つまりはウンコみたいなものである。
休み時間、授業中に関わらず、勝ってくるぞと勇ましく、大手を振りながらウンコをできる環境に「これが大人ってやつか」としみじみ感じ入ったものである。
そんな糞まみれのうんこく時代を過ごした高校生活であるが、友達も居たし、彼女も居たし、いつでも気兼ねなく脱糞出来る余裕からか、胃腸の様子も少しは良かったように思える。
そして高校を無事にノー漏れで卒業し、死にたいくらいに憧れた華の都大東京に上京することとなる。
3年ぶりに女性と同じ屋根の下で学ぶことになった専門学校であるが、もはや18年毎日行われた胃腸との対峙、対決の結果により向かうところ敵なしとなっていた俺に死角は無かった。
ただ、死角は無かったと言っても、腹は痛くなるので、この頃より将来の夢は「家で出来る仕事」となる。
また、このぐらいの年になると、車に乗って何処かへ行ったりと、遠出をすることが多くなるが、その時は、さすがの玄人である俺もかなり困った。電車のようにその駅ごとにトイレがあるわけでは無い。
冷静に自分の腹具合と相談しなければ、腹腹時計が爆発し、車中脱糞という壮大な悲劇と、ちょっとした喜劇が待ち構えている。
そんな時には、気管支炎喘息の症状を活かして多目にもらっておいた、リン酸コデインが役に立った。
この鎮咳剤は、基本的には咳を鎮めるためのものであるが、もうひとつの作用として、下痢止めがある。医者に処方される際に「便秘になる作用もあります」と言って処方されることの多いこのリン酸コデインであるが、正露丸も効かないロシア以上の胃腸を所持する俺に効く唯一の下痢止めと言っても過言ではない。
正確には、万年下痢なので、コデインを飲むと、その便秘の作用と相まってなぜか丁度良い状態になる。という素晴らしい効果なのである。ウィリアム・バロウズの小説に出てくることもポイントが高い。
閑話休題。
そうこうするうちに、あっという間に30歳を過ぎた。
ということは、もうこの胃腸との付き合いは30年を超えるわけであり、30年も毎日己の胃腸と向き合っていれば、それはもう健康問題どうこうというよりはもう「道」すなわち「タオ」である。
脂っこいものを食せば下痢になる。これはもう宇宙自然の普遍的法則、そして根源的実在であり、衆目の前で漏らして迷惑をかけないというのは、道徳的な規範はもとより、美や真実の根源なのである。
30を過ぎた頃から「屁だと思ったら実だった」というちょっとした逆転現象が起きることが多くなって来たように思える。
ベテランだと思っていたウンコ我慢道も、まだまだ知らないことばかりである。
頑張って生きていこうと思う。
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