はてなキーワード: 拷問禁止条約とは
そもそも今回の問題を考えるためには免責特権について知る必要があります。
免責特権とは、特権免除あるいは不逮捕特権とも称され、読んで字の如く逮捕されることのない特権のことです。大使といった外交官も、この特権のおかげで逮捕されることがないことはよくテレビでも取り上げられていることです。ただ、外交官の本国がその特権を放棄したら、とたんに逮捕されることになります。実際に、グルジアの大使がアメリカで酒酔いひき逃げ事故を起こしたとき、グルジア本国が特権を放棄した結果、アメリカ当局がその外交官を逮捕した事例(Gueorgui Makharadze事件)があります。また、刑事に関しては絶対的に免除される一方、民事に関しては、例えば相続や商業活動といった私的行為を巡る事件については裁判を受ける可能性があります。
さて、次は1999年にあった、政府トップの刑事裁判権について大きな一石を投じるピノチェト事件について触れましょう。
この事件の概要を三行でまとめると、
・ピノチェトは大統領時代に反対派に対して拷問などの弾圧を行っていた
・辞任後にロンドンで療養中のところスペインの国際逮捕状に基づきイギリス警察が逮捕
・チリ政府はピノチェトの免責特権の侵害であるとイギリス政府に抗議しイギリス貴族院が審理することに
この事件でのポイントは、"元"国家元首に対しても特権が認められるかどうかでした。そこを、イギリス貴族院が、在職中は「絶対的な人的免除」を享有し、利殖後は「事項的免除」を享有するとしました。この事項的免除というのは「公的な行為」以外の行為に関しては免除されないというものです。
で、ここからが肝となりますが、イギリス貴族院は拷問といった強行規範(絶対に破ってはいけないルールのこと。例えば奴隷制だとか拷問だとか。)に違反するばかりか条約でも禁止されてる行為は公的任務に当たらないとしたわけです。実はチリは拷問禁止条約を批准しており、その条約の趣旨に反する免除は黙示的に撤回しているというのです。だからピノチェトの免除は認められず、イギリス警察による逮捕・引渡しは合法であるとしたのです。
ここまで書くと江沢民の訴追は可能なように見えますが、そう簡単なお話ではないんです。
実は2002年にアメリカで、中国国内の法輪功に対する弾圧を巡って江沢民を訴追する動きがありました。アメリカ国務省が元首免除に基づいてその訴訟は止めろと言った後に、江沢民はトップの座から降りたので、訴追できるのではないかとしたのです。しかしながら、第七巡回区控訴裁判所での判決で、辞任後も免除は存在する上に、強行規範違反に関連する訴追であっても免除は享有されるとしたのです。他にも、2000年にはジンバブエのムガベ大統領が訴追から免除される事例もありました。ヨーロッパに目を向けても、フランスはカダフィ事件においてカダフィ大佐の免除を認めました。
分かりません。本当に分かりません。ただ、以上を見ていたら分かるように、国内裁判所が外国の国家元首をたとえ"元"であろうとも、裁こうとすることはかなり難しいことなんです。この辺はもっと詳しく学説だとか各国の政治事情だとかを絡めて話したらもっと面白くなりますが、とりあえず、国際法に絞って書いてみました。何か間違いがあれば遠慮なくご指摘ください。