母は63歳。四国に住まい、膵臓癌で療養している。すでに末期であった発覚時からいつのまにかもう2年が経ち、もうごはんをたべることも自分でできなくなってしまった。
俺は35歳。四国に生まれて大学から関東に住んでいる。独身ながらもマンションを関東に買ってしまい、こちらに骨を埋める気でいる。そんな折りに母の膵臓癌が発覚し、しばらくしてから介護のため四国に戻ってきた。
現在は毎日毎日俺が家族親類の助けを借りながら食事をこしらえて口まで運んでやっている、そんな状況である。
先日在宅介護に来てもらった看護師さんから、母の命にはもう1週間の猶予もないだろうと告げられてしまった。
まだまだそういった事態は先だとくくっていた俺も家族も、大急ぎで葬儀の検討や荷物の整理に入ったところである。
そこでハンコの問題で関東にもどらねばならない都合ができてしまった。
人が死ぬと、相続というものが発生する。相続の際には、遺産分割協議という家族会議を行い、遺産分割協議書という書類を作成せねばならない。
その遺産がたとえ銀行口座に入っている119円であろうと、5000円の信用金庫の出資証書であろうと、それは遺産であり、相続が、遺産分割協議書が必要である。
ここで問題になってくるのが、遺産分割協議書に捺すハンコである。
遺産分割協議書には実印を捺さねばならず、相続する人が居住自治体にハンコを登録し、その登録した証書を添付することが必要となるようなのである。
さて俺は、以前にマンション購入をしている。マンション購入をした際に実印を作成し、自治体に登録していた。この時に実印登録をしていたのだが、マンション購入後には当然そのマンションに引っ越した。
しかし引っ越し先の自治体で実印登録をしていなかったのだ。いま俺がもっている実印は実印として登録されている実印ではなく、ただのハンコでしかないのだ。
このため、居住している自治体で再度実印登録をする必要が出てきた。
しかし実印登録をするには、居住自治体の窓口で申請を出し、許諾されなければならないのだ。本人がハンコをもって役所に赴き、申請書を提出しなければならない。
役所に問い合わせてみたが、郵送も他人への委任もできず、俺が役所に行くしかないらしい。役所に行ってハンコを捺して帰ってくるしかないらしい。
この電子化の時代、ハンコ廃止の時代に、こんなことが必要であるとは思いもしていなかった。
119円の現金を分割して相続するために、どうして片道4万円弱(正規料金)の飛行機で羽田まで飛ぶ必要があるのであろうか。あるいはどうして片道13時間のバスに揺られて東京までいかねばならんのであろうか。
ちなみにちょっと考えてみた結果、一度居住地の役所に郵送で転出届を出してから、四国の役所に転入届を出し、印鑑登録、相続手続きをして、再度四国から居住地に転出するのがいちばん手間が少なそうである。