2021-05-24

クラスお茶くみがLv.99になった

私のなかの管理者風の声がアナウンスした。

雑然としたオフィス内にその声は響かない。

スキルは様々。

毒入り抹茶Lv.10フェミ隠しLv.5、鼻くそLv.20茶柱Lv.55、茶柱手裏剣Lv.15、応接スマイルLv.0(固定)、灰皿クリーナLv.20、給湯座談会Lv.98、陰口Lv.70、観葉植物への水やりLv.30、ゴミ箱ビニール交換Lv.10辞表の理(ことわり)Lv.60。

ちなみに鼻くそスキルレベルが低いのは、自分自身相手お茶鼻くそを入れることに生理的嫌悪があるからだ。

それでもLv.20まで上がってしまった。

高圧的な取引先に対して茶柱手裏剣を見舞って転倒させたこともある。

応接スマイルの一撃でフォローすることは忘れなかった。

あるひ、イケメン上司のNくんがお茶くみを頼んできた。

私はフェミだけどイケメンは別口だ。イケメンなら最悪服従してもいい。

そう思っているせいでフェミ隠しもそんなにレベルが上がらない。

しかしN上司の依頼は、バーコード頭のYにもお茶を入れてくれというものだった。

Yには鼻くそ爆弾を何発か見舞った程だ。スキルにはない鼻毛を入れて怒られたこともある。

他ならないNの依頼とあってはしかたないと思い、片方の茶には鼻くそを入れ、もう片方は茶柱を発動して事に臨んだ。

しかしそこに敵は現れる。お局ウェーブのUがやってきたのだ。

彼女は私が入れたお茶自分が渡すと言ってぶんどってしまった。

こちからスキル入りの茶が見える。

ウェーブはその持ち前の鈍さを遺憾なく発揮して鼻くそ入りをNの前においてしまった。

茶柱が立って喜ぶY。

しまったと思ったが、もう遅い。

私はNの口元に茶が運ばれる前にスキル観葉植物の水やり」「灰皿クリーナー」を合成してお茶鼻くそ浄化した。

すかさず聞こえてくるNの声。

「うわなんだ、これ。水じゃないか

ウェーブは赤っ恥をかき、Nはただの水を飲んだが事なきを得て、Yはホッコリ顔で仕事に励んでいる。

しかしただでは済まない。

ウェーブはブチ切れて給湯室で私に詰め寄ってきた。

何やら喚き散らすウェーブを尻目に「応接スマイル」を連発し、「ゴミ箱ビニール交換」スキルを使ってストッキングを半脱ぎ状態にしてみせた。

ウェーブは転倒して叫び声を上げ、その上に「鼻くそ弾」の直弾、「茶柱手裏剣」が追撃を加えた。

ウェーブ意識を失ったせいで私の弁解タイムはそれなりに確保された。

それ以来スキルは誰にも気づかれていない。

観葉植物の水やりが一瞬んで終わることも、お茶がなんとなくクリーンなことも、全く気づかれることがない。

ただ、私はLv.99だ。なにかかが強いわけではないが、お茶くみの世界では最強だと思う。

しかし、お茶くみの世界で最強、という称号になんの意味があるのかと問いかけられると心細くなる。

そうやってデパ地下で一人心細くなっていると、弁当を入荷している業者さんの荷物――おそらくオキニの牛とろ弁当――が今まさに崩れようとしているのが目に入った。

商品は高価だし、私はお得意様だし、業者さんがリカバーに入ろうとしているのがスローモーションで飛び込んできた。

私の目が光った。

鼻くそ弾――!」

高速で射出された鼻糞が弁当の底面を滑らせ、高速回転する。

20箱ほどの牛とろ弁当スピンしながら床を滑って着地した。

良かったですね、と私は「応接スマイル」を発動。

業者さんは、

「後でお礼したいのでせめて名前だけでも」

こちらに懇願したが、私は背中を向けると、

「ただのレベル99ですから

意味不明の台詞を残して去っていった。

一体誰があの鼻くそがついた牛めしを食べるのだろうか。

そう思うと気が気ではなかった。

大層奇特な面を持つOLとして私は帰宅し、9時台のドラマを見て就寝した。

Lv.99だが特に便利なところはない。睡眠時短できるわけでもなければ、お給金が上がるわけでもない。

そして、レベル99であることにほぼ誰も気づかない。いや、デパ地下業者さんも意味不明だろう。

そういえばLv.99ってなんだろうと寝る前に考えた。

自動的に牛とろ弁当スピンする映像が浮かんで一人で吹き出したが、夜の静けさには勝てなかった。

冴えないLv.99のOLの夜なんてこんなもんだ。

明日サボテンに水をやろう。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん