2019-11-15

チーズトーストが、柔らかいだと?

一体全体どうしちまったっていうんだ。

チーズトーストだぞ。

自動モードの ”トースト” でふつうに焼いただと。

ピッ で選択するだけだからいちばんカンタンから

食パンスライスチーズをのせて、ピッ ってすればスグできるから

オーブンレンジ操作パネルに ”トースト” って書いてあるから。だからそれを押せばいいんじゃん。

俺が大学に行くために独り立ちして以来、十年以上は離れてた。そういえば正月や盆休みに顔を合わせることはあっても、こうして平日に一緒に生活するのは久々だったよな。

受験勉強ときには、よく夜食を作ってくれたな。いよいよ切羽詰まってた夜、寒い冬。夜中に届けてくれた月見うどんはうまかったぜ。

「おにいちゃんうどんあるんだけど」。ありがたかった。ちょっと出汁が強かった気がしたけどな。

あのころお前は、なんだか唐突料理に凝りだして。俺は不甲斐なくも、いいなあ中学生は暇でなあ、なんて思ってたぜ。のほほんと。

妹よ。

そんなお前は学生時代に唾つけといたイケメンのケツをつついて某メガバンク就職させて、炊事・洗濯その他家事対応させフルカスタムにし、いつのまにか一児の母になって、母親葬式だって兄貴を振り切って手を回してくれて、あらゆるシーンでテキパキと如才なくて、地頭クロック数が高いっつーか、先読みが効くっつーか、PDCAサイクルタイトなのか、人生を回していくスピードのものが俺なんかとは段違いで。何が二人を分けた? 生まれつきの差か? それとも強い目的意識の下のある努力の成果だったのか? いや身につけたスタイルなんだっけか。いつぞやの飲みのときドヤ顔で”注意の節約がコツっすよ”とか言ったっけな? いつもなんか考えてんだよな。やっぱりスゲーよ、さすがは自慢の妹。

そう思ってた矢先。

「娘ちゃんは夫さんに割り当てました」。実家羽根を伸ばして、きょうだい水入らずの平日。世界のどこにでもありそうな、でも欠けていた穏やかな日の、昼食が。

ツナサラダツナ缶のオイルを切っただと? ツナサラダだぞ? そして現れる、柔らかいチーズトースト

母親のお前には釈迦に説法だろう。

糖分多めの食パン

伸びないスライスチーズ

それはいい。我々の生活には現実的な制約があるから。だからこそいまこの瞬間を大事にする。ここにあるものを味わう。妥協ではない。これが生きるということ。日々をやっていくということ。チーズトーストを焼くということ。

”強” ボタンを押して、からな。

カリカリパンに、パリパリチーズチーズトーストイデア

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