2018-08-12

[] #60-5「タメになった気の経営ごっこ

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「じゃあ、どうすればいいんだ。ほぼ詰んでなくないか?」

この時点でかなり厳しい状況だった。

現状、カジマが有利になる方法しかできない。

俺たちがそれぞれ持っている手札ではその結論になってしまう。

まあ、実を言うと、他の方法がなくはない。

多分、俺以外の奴も何人か思いついている。

ただ、僅かばかりの良心が痛むから提案しにくいのだろう。

「早くしてよ~、悩んでる暇あるならさ~」

カジマが余裕綽々といった具合に急かしてくる。

少し癇に障るが、ゲームで優位に立っている人間は得てして“ああいう風”になりがちだ。

それにカジマの人格を顧みれば、そこまで腹は立たない。

とはいえ、今の態度で確実に俺たちの僅かばかりの良心は消えたが。

「みんな、聞いてくれ。一つ方法がある」


…………

まず俺たちがやったことは、数ターンかけてそれぞれの消費物を売買することだった。

「え、ちょっと! オイラんとこで作ったものっすよ!」

生憎、今は俺たちのもんだ。どうするかは俺たちが決める」

当然だが、この間カジマは蚊帳の外である

「オイラんところで働きたくないからって、そんな無意味なことしなくても……」

カジマはまだ気づかないようだが、当然この行為は単なる遅延行為ではない。

まあ、気づいたところで大したことは出来なかっただろうが。


そして、数ターン経過。

一人が買える消費物には制限があるから、随分と“調整”に時間がかかってしまった。

だが、これでひとまずは完了だ。

「……え~」

カジマはうな垂れている。

どうやら、やっと俺たちの作戦に気づいたらしい。

この時点で、俺たちは同じ数の消費物を持っている状態

ただ、消費物がない人間がいる。

カジマもいるが、そっちじゃないぞ。

タイナイだ。

その代わり、あいつには大量の金があった。

俺たちから掻き集めた金だ。

「そこまでしてオイラを勝たせたくないんすか!?

これが作戦だ。

カジマのもとで働くのが嫌だが、他に経営できる個人はいない。

だったら団結して、カジマ以外に経営が出来る奴を作り出そうってわけだ。

当然、この方法には問題がある。

意図的に金を一人のもとへ集めるため、それ以外はトップいから外れることを覚悟しないといけない。

まり、個々人の勝負としては破綻するわけだ。

しかも、これは露骨にカジマをハブっている。

実質的ゲームに参加させないことで勝つという、かなりエグいやり方だ。

だが、それでもカジマにやりたい放題させるよりはマシ。

そう結論付けた上での作戦だった。

「途中で裏切り者が出ないかとヒヤヒヤしたが、意外と上手くいったな」

「それやったらカジマみたくハブられるのがオチだろうからね」


後は流れである

俺たちはタイナイのもとで労働と消費を繰り返す。

カジマは消費物を持たないため何も出来ない。

経営か、俺たちから買うことによって増やせるが、もちろん俺たちはどちらも拒否する。

良い条件を提示したとしても、だ。

カジマの“やり口”を知っている俺たちは、それが甘言でしかないと思っているからだ。

「みんな、酷くないっすか? 確かにイラは悪どいやり方をしたけど、あくまゲームとして戦術的に立ち回っただけなのに……」

カジマがいじけ始めたので、仕方なく俺はフォローに入る。

「尤もな主張だ、カジマ。だが、お前のやったことが戦術だっていうのなら、俺たちのやったこだって戦術範疇だって認めるべきだ」

「いや、でも、こんなの面白くないっすよ~!」

そりゃあ、面白くないに決まっている。

得てしてゲームにおける勝負というものは、“相手面白くならないように立ち回る”ものからだ。

そして、カジマが面白くないからといって、そこまで気遣う理由は俺たちにはない。

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