こうして俺たちは、ふてくされているカジマを尻目にサイクルを回していく。
しかし、そのサイクルが数ターン続いた後、タイナイがこんなことを言い出した。
「ねえ、これって結局しょっぱい状況になってるのは変わらなくない?」
みんな薄々そんな気はしていたので、誰も反論しなかった。
トップがカジマからタイナイに変わっただけで、本質的にやっていることは同じ。
ゲームとしては完全に膠着している。
競争ゲームでみんなが手を取り合ったら、それが競争でなくなるのは当然のことだ。
「まあ、確かにしょっぱい状況だが……しょっぱさのベクトルが違う、というか」
「どういうこと?」
「カジマが優勢だったときのしょっぱさは、海水を舐めた感じ。今は塩おにぎりを食べているようなしょっぱさだ」
「マスダ、その例えは益々分からない」
「……まあ、つまり美味しく食べられるしょっぱさなら良いだろってことだ」
何はともあれ、こうして経営ごっこは、タイナイがトップということで幕を閉じたのであった。
「……感動した」
だが、意外にも担任の反応はすこぶる良かった。
「……へ?」
そして、この突然の問いかけ。
俺たちの返答を待たず、担任は話を続けていく。
「ブラック企業の最大の強みは、労働力を安く買い叩ける点にある。つまり大幅な節約だ。そして、その分を他のところに回せるから、商品のクオリティ維持しつつ値段を抑えることも出来る。消費者から見れば嬉しいことだ。つまり正当な対価や労働条件のある会社と、労働力を買い叩く会社がほぼ同じ条件で競争すれば、後者のほうが有利になりやすいのは当然ということ」
俺たちはついていけてないのに、それを無視するかのようにどんどん持論を展開していく。
「時に、『クリーンかつ向上に励めば勝てる』なんてことをいう経営者もいる。だが、それはたまたま経営が上手くいっている人間のポジショントーク。強者の論理でしかなく、それが白か黒かの違いだけ。大事なのはブラックを許さない、絶対に潰そうという強い意志。お前たちは団結し、それをこのゲームを通じて体現したんだ!」
「よし、じゃあ今日はここまで!」
不満足な顔をした俺たちを残して。
「えーと……イイ話、だよね?」
「そうだな。あれを担任がイイ話だと思って語っている点を除けば、だが」
「いや、もう率直に言おうよ。アレはない。白ハゲ漫画やツイッターの創作実話の方が、まだタメになった気になれる」
この担任の語りを聞いて、俺たちは完全に白けていた。
あんなので授業を無理やり締めくくられたら、そうなるに決まっている。
聞こえのいいお題目を唱えつつ、その実はゲームとして破綻しているものを無理やりこじつけているだけなんだから。
「たぶん、オイラたちがどう立ち回っても、ほぼ同じ教訓を語ってた気がするっす」
俺たちはそれに付き合わされただけ、という思いが募っている。
強いて学べることがあるとすれば……「教師のやる茶番は大抵クサいか出来が悪い」ってことぐらいだ。
「じゃあ、どうすればいいんだ。ほぼ詰んでなくないか?」 この時点でかなり厳しい状況だった。 現状、カジマが有利になる方法しかできない。 俺たちがそれぞれ持っている手札で...
そして3ターン目。 このターンは消費物を買って金が減ったので、カジマのもとで労働だ。 タイナイもその内の一人だった。 なぜなら、この時点でほとんどの労働者は消費物が潤沢。 ...
俺個人がやったことは月並みだ。 「なあ、こっちで働いた場合は何ポイントくれるんだ?」 カジマ側とタイナイ側に、それぞれ報酬を尋ねた。 労働で稼ぐ場合、より金を出してくれ...
「経営ごっこ」のルールを詳細に説明する意義はないので、ざっくりと語ろう。 断っておくが、あくまで話の雰囲気を最低限は理解できるようにするための説明だ。 まあ人狼並にユル...
俺の通っている学校は、特に公民のカリキュラムに力を入れている、らしい。 その公民とやらは更に学部とか科目が分かれていて、選択制となっている。 だけど、そもそも「公民」と...