もともと、入学した大学には興味が無かった。研究室はもちろん、受けてみたい講義もほとんど無いことは受験する前から分かっていた。
その大学を選んだ理由は受験すれば確実に入れることだけだった。親からは浪人だけは絶対に禁止されていたので、受かる可能性は低い、本当に入りたかった大学にはチャレンジしようとは思わなかった。どう頑張っても、センター試験の結果が足を引っ張ってしまい、二次試験ではかなりの高得点を取る必要があった。そんな実力はその当時の自分には無かった。だから諦めた。
幸い、その大学には編入試験があり、大学生も受け入れてくれる心優しいところだった。高校生の自分はとりあえず別の大学に入学して編入試験で本命の大学に入学できるよう頑張ろうと考えた。
高専出身の人なら分かるだろうが、たいていの大学は三年次から編入することになる。これは編入する前に取得した単位は編入先の単位として認定されるからだ。もちろん、編入先でも開講している講義だけが認定される。一般教養や基礎科目なら十分単位認定されると考えていた。しかし、専門科目になるとそうは言ってられない。何しろ専門が違うのでせっかく取得した単位もほとんど認められない。つまり、編入しても入学した瞬間に留年が決まるということだ。
編入試験を受ける前提で今の大学に入学するという旨を両親に話すとあっさりとOKを貰った。もちろん、もし入学できても合計四年では卒業できないことは伝えている。その当時は、なぜ浪人はダメで編入は良いのか不思議だと思っていた。両親は予備校にカネを払うのが嫌だっただけなのかもしれない、というのが今の自分の仮説だ。理由は後で書く。
原因は分かっていた。アルバイトだ。
今の大学に合格した後、真っ先にアルバイトをした。編入試験や今の大学で使うのに必要なお金を稼ぐためが最初の目的だった。しかし、いざアルバイトをしてみると、高校生のときとは比べ物にならない大金が銀行口座に振り込まれていた。高校生のときに欲しかったものを買い、あっという間に減っていく預貯金。そのために働く。その負のサイクルの繰り返しだった。その間の編入試験の勉強はなおざりだった。結局、編入試験直前になってもアルバイトを辞めず(量は減らしたが)編入試験に臨むこととなった。少し言い訳をするなら、編入試験で出る範囲の半分は二年次の講義内容だったというぐらいか。もちろん、そんなことは入学するときに頭のなかでは分かっていたが。
どうしても、やりきれなく思い、両親に来年も挑戦させてくれと懇願した。両親はあっさりとOKを出した。もし合格しても、やっていることは一浪、一留と同じことだ。この辺から両親の予備校嫌いかもしれないという仮説を立てた。
他大学からの編入には六十単位程度取得する必要がある。そんなもの二年次の前期にはすでに取り終わっている。もう一つはその大学に二年以上在籍したという証明が編入試験を受ける条件だ。
今の大学には在籍しているだけで良い。それだけでもう一度編入試験を受けられる。そう思ってしまった途端、今の大学に対するモチベーションが無くなってしまった。少しは受講している内容に興味を向けようと思っていても全くできなくなってしまった。もともと興味も無い状態で入学したのだから当たり前なのかもしれない。きっと後期の単位のほとんどを落としているだろう。テストを受けているとき、頭の中ではこの解法を使えばいい、と分かっていてもどうしてだか自分のシャープペンシルは動かないのだ。それでも、最初の方は無理やり手を動かして答案を書いていたが、後半になるにつれて全く手が動かなくなってしまった。わかっているのに書けないという気持ちは初めてだった。そのままテスト終了時刻までフリーズしてしまう。専門科目をほとんど落とすことになるので、この大学でも留年は確定しそうだ。
在学証明書やその他諸々の書類が編入試験には必要なので、このまま三年次に上がることになる。
もし、また編入試験に不合格だったらと思うことがある。これ以上編入試験は受けられないだろうと思っている。そうなった時、はたして今の大学に行く意味があるのだろうか。
何浪もしている人が自分の周りに居たけれど、 「なんでそこで手を抜いちゃうの???」というところで手を抜き、 かといって、その土壇場で手を抜いちゃった結果が自分の実力だとは...