あれは、社会人になって2年目の6月、ちょうど今ぐらいの時期だったように思う。
私は営業マンとして、社会の一つの歯車を回している。そこそこの給料とそこそこの休日があるので、セレブではないがまぁまぁの生活が出来ているが、
その日も頑張って営業で外を回っていた。基本的に車で営業先に移動するのだが、人間頑張って生きていると、どうしても運転中に眠くなるタイミングがあるのだ。
そこで私は、昼ご飯を車の中で食べた後、必ずコーヒーを買って飲むようにしていた。すると結構眠くなる確率が低くなるのだ。もともとコーヒーは苦手だったから、コーヒー牛乳にして苦味を抑えていた。
さぁあと一つ最後に行こうと思ってカーナビをセットする。次の到着地まで15分。今の営業先で話した内容を纏めて、頭を整理させるのには悪くない時間だ。
その日はコーヒーを買う時間が普段より少しだけ遅く、手に取ったときはまだ冷えていた。喉も渇いていたので、ゴクゴクゴクと多めに飲んで出発。
……したのはいいのだが、もう少しで営業先というところでお腹がゴロゴロしてきた。マズい。これは一気に来るやつだ。
普段の腹痛が震度3ぐらいの微弱な揺れから徐々にパワーアップしていくとすると、こいつは前触れ震度2の直後に震度7という感じか。
焦っているとちょうど出先に着く。駐車場にかなり雑に車を停め、建物に入った。
だいたいどこでも中に入るときは来客名簿のようなものに所属と時間を書くのだが、
今までにないくらいめちゃくちゃな字を書いてトイレへ。既にこのあたりで恐らく穴から顔ぐらい出ているのではないか。
ズボンとパンツを下ろそうとしてベルトに手間取る。ああっ!あっ!!!あああああっっっっっっっ!!!!!!!!!
っっっっっ!!!!!
パンツに手をかけた瞬間、私のお尻には生暖かい感触と異臭が漂った。思考停止……する前になんとか肛門括約筋に力を入れ、これ以上悪くなりようのない悲劇をなんとか最小限に喰い止める。
しかし人間、異常な状態になると、それは意外にも冷静になるものだった。半笑いしながら落ち着いて下半身の衣服を全て脱ぎ、半裸状態で鞄の中を探す。
私は当時からモノの用意がイイので、鞄の中から何かに使えるだろうと思って入れておいたスーパーのレジ袋を見つけたのだ。
色とナニかが付着しているパンツをレジ袋にしまい、しっかり封をした。これで一安心。
不幸中の幸いというべきか、ズボンには何もつかなかった。パンツをしまうと意外と異臭もしなくなった。
いくら用意がいい私とはいえ、さすがに替えのパンツは持っていなかったので、そうなると結論は一つ。ノーパンズボンである。
かくして私はノーパンで何事もなかったように、いやむしろ意気揚々とトイレを退出し、そのまま商談相手と話をし、なんなら契約も勝ち取ってしまった。
異臭がないか最後まで心配だったが、相手の反応を窺うに、異臭もissueもなかったのだろう。
冒頭にも書いたが、ふとこの時期になって、忘れられない私の、人間意外と冷静に対処できるもんだね、という思い出が蘇えったので、記してみた。