彼とはあまり趣味があわなかった。はじめは、年齢が14歳も離れているのでジェネレーションギャップは仕方がないと思っていた。しかし、付き合いが長くなってくると、私と彼の趣味の相違は年齢が原因ではないことに気がついた。「この人と同級生でもあまり話があわなかっただろうな」というタイプだったのだ。
美大に通っていた私は、いわゆる青文字系、サブカルチャーみたいなものが好きだった。好きな芸能人はピースの又吉と小松菜奈、好きな音楽はくるりとtofubeatsや好きな映画は岩井俊二とグザヴィエ・ドラン。赤い口紅をつけて、現代アートの展覧会でデートしたかった。
大手メーカーで営業をしていた彼が選ぶものは、私の感覚と少し違った。好きな芸能人は磯山さやか、好きな音楽はキロロとミスチル、好きな映画はインディペンデンスデイ。カラオケが好きな人で、キロロの「長い間」という曲を覚えて歌ってほしいとリクエストされた。彼は赤い口紅を嫌っていたし、ゴッホとゴーギャンの区別ができなかった。
私には彼の趣味がよくわからなかった。磯山さやかはかわいいし、キロロの「長い間」はいい歌だし、インディペンデンスデイは今日の土曜ロードショーだった。それらの良さがわからないわけではないが、そういうものを「良い趣味」だと感じることは難しかった。これからも難しいと思う。
彼は、私が赤い口紅をつけると「ちょっと派手だな」と顔をしかめた。彼とデートするとき、私はピンクの口紅をつけ、赤文字系の店で購入したワンピースを着るように心がけた。彼はとても優しく、マメな性格で、仕事を精力的にこなしており、私はそんな彼が好きだった。ただ時おり漠然と、「この人は私のパーソナリティーにあんま興味なさそうだな、興味ないってか私の趣味の領域について考えたこともなさそうだな」と思って寂しくなった。
結局、「早く結婚して子どもが欲しい」という彼の期待に応えることができず、半年もたたず破局した。
そのすぐ後、ものすごく趣味があう男性と出会った。彼は当時26歳だったので、年齢も近い。ただ、「この人とは年齢が離れてても話があうだろうな」と思うような人だった。
彼の好きな芸能人は二階堂ふみ、好きな音楽はくるりとtofubeats、好きな映画はダージリン急行だった。ガロ系の漫画や町田康の小説が好きで、とにかくサブカル臭がすごい人だった。恋に落ちるのに1秒もいらず、私は久しぶりに赤い口紅をつけて彼とデートを重ねた。彼は私の口紅をほめてくれた。音楽、映画、小説、お笑い、彼の話はどれも面白く、「世の中にこんな趣味のあう人が存在しているんだ」と私は有頂天になった。彼は無精な性格で、仕事への情熱はあまりなかったが、それでも私は彼を好きだった。
しかし、彼とは2回目のセックスのあと連絡がとれなくなってしまった。「愛してる」、でもまさかね、そんなこと言えなかった。彼とはそのまま終わってしまった。
まあ、二人だけじゃ、いい人に巡り合える確率は低い罠。