2017-01-23

この新宿の片隅で

「ぼく!ぼく!できたよ!」

意識の中の限りになく奥で聞こえる、かすかな声。

徐々にクリアになる視界とサウンドを感じながら、現在の状況を呼び戻す。

スリープ状態から復旧する時のいつもの作業だ。

ああ、俺の義体ジャパニーズボーイだったけ?

視界に流れてきたのは、白髪の主人。

ここの店主だろうか?

見た目だけで「ぼく」呼ばわりなんて、ポリティカル・コレクトネスという言葉を知らないのだろうか?

義体が普及した現代で、見た目だけで中身を決めつけられて話されるのは不愉快しかない。

少しイラつきながらも、状況を整理する。

ああ、そうだった。

トランプタワーから逃げ出して、イーストジャパンに流れ込んだのが災難の始まりだった。

トーホーティを訪れたまでは良かったんだ。

トーホーティと言えばガッジーラの聖地

男なら一度は必ず訪れるべき場所。今は無くともだ。

一帯に広がる未認可の義体ショップ

その多くで扱われるガッジーラの義体

素直にガッジーラの義体にしておけばよかったのだが、その中で一際目を引いた義体があった。

日系で1112歳ぐらいのボーイのフォルムだろうか。

別に俺はショタ趣味があるわけじゃない。

俺の祖国義体実年齢の差には厳しかたから、単なる興味本位だ。

年齢制限がこんなに緩いなんて、さすがジャパンだ。

狂っているとしかいいようがない。

気付けば俺はもうサインをしようとしていた。

イエローシャツを来た義体士が色々と説明しているが、

まだ言語パックのダウンロードが完全でなかった俺には半分も理解できない。

とりあえず理解できたのは燃費が悪いから気を付けろということらしい。

半分も理解できないままサインをして、そのままシモキタクロークに送ってもらったが、これが失敗だった。

トーホーティ義体はガッジーラとウルトラマン以外はロクでもないと聞いていたが、その通りだった。

まさかこの義体あんな罠があったなんて、誰が想像できただろうか?

まったくこの国はクレイジーと言わざるを得ない。

翌日シモキタクローク義体を交換した私は、オダキュウ跡を伝いながら、ネオシンジュクを目指すことにした。

義体の慣らしと散歩を兼ねて、歩いて行こうとしたのだ。

だが、数十分歩いたところで異変に気付く。

何かを猛烈に欲しているのだ。

何だこの欲求は?

ヤサイヤサイヤサイ

ヤサイが瞬時に理解できなかったが、Vegetableだ。

何故だかは分からないが、猛烈に野菜が食べたい。

他にもいくつか欲しているものがあるが、

現在言語パックでは理解できない。

空腹が進むのも感じる。

昨日義体を購入した店にコールしてみる。

イエローの服を着た義体士曰く、この義体燃費が悪いだけでなく、

カネシを切らすと義体と神経構造が強く結びついてしまい、

義体交換ができなくなってしまうらしい。

なんてこったい。

早速教えてもらった音声コマンド入力する。

ニンニクイレマスカ?」

すると、AR領域にカネシが切れるまで時間が表示される。

残り40分少し。

カネシはラーメンジロウというヌードルショップ補給できるらしい。

急いで近隣店舗を探す。

あった、ニューダイタだ。

ガッデム!

休んでやがる。

次に近いのはネオシンジュクか!

俺は走った。走った。

今思えばUberを呼べば良かったのだが、そんなことが思いつかないほど焦っていた。

ようやく店に入った頃には、カネシが切れる直前だった。

時間帯が良かったのか、幸いにも並ばずに入ることができた。

少しでも時間が短縮できるようにカタメをコール

ゆでている間のカネシ切れを防ぐため、スリープモードに移行したわけだ。

どうやらこの義体、ドージンキングが趣味で作らせた特注品らしい。

ショタ趣味ジロリアンだったらしいが、とんでもなくクレイジー野郎だ。

危うくギルティーな生活から抜け出せないところだった。

そう言えばあの義体士、イエローシャツチャイニーズキャラクターが二文字書いてあったけ?

あれは何て読むのだろうか?

この言語パックでは解析できないようだ。

そうして、目の前の白髪の主人と向き合う。

ニンニク入れますか?」

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん