2016-01-12

チャーハンを食べる夢を見て泣いた話

嫁が他界した

まりに突然だった

この寒さの中、脱衣所で倒れてそのまま帰らぬ人となった

こんなにも人の命とはあっさりと消えてしまものなのだ

さようならだってろくに言えなかったのに

なんでもないことでも大げさに笑うはずの嫁は、もう僕のどんな言葉にも表情を変えなかった

葬儀から納骨まで、いつの間にか湧いて出てきた親戚と葬儀屋とで勝手に進んでいった

世の中とはうまく出来ているもので、こうして立ち止まれないようになっているらしい

自分は言われるがままに決められた役目だけを全うした

夢を見てるみたいで全く現実味がなかった

試しに何度も頬をつねってみたが痛みの感じ方すら忘れてしまったようだ

一通りのことが終わると、緊張が解けたのか急にお腹が空いてきた

ぼくは白米が好きだ

といってもそんなにこだわりが強いわけでもない

炊き方にこだわりがあるわけでもないし、ブランドにこだわりがあるわけでもない

おかずとともに変わっていく白米の味が好きなのだ

しかし、そのことが原因で一度だけ嫁と大きな喧嘩をしたことがある。

夕食はいつも嫁が作ってくれていた。

共働きながら、契約社員ゆえに残業がなかったからだ。

そんな嫁が作る夕食は味覚が子供からかきまってチャーハンピラフオムライスなど、ワンプレートご飯が多かった。

といっても別にワンパターンなわけではなく、いつも中に入る具材や見た目の違いで楽しませてくれていた。

結婚から僕が白米を好きなことは知っていたはずだし、いつも僕はそう口にしていた。

どうしてわざわざ調理の手間をかけて白米じゃないものを出すのか、白米と焼き魚味噌汁だけあれば文句はないのだ。

仕事ストレスも相まってか、その時はそんなつまらないことで声を荒げてしまった。

僕は出されたものを食べずに捨てた。それを泣きながら抗議する嫁を尻目に家を出て、その日は近くの定食屋で夕食を済ませた。

翌日から嫁は何も言わずに白米を出してくれるようになった。

当然僕はそんなことを褒めもせず、嫁も楽になるし僕も食べたいものが食べられるお互いがプラスになっただけだと思っていた。

その証拠に、その日から食卓にはサラダ煮物なんかがもう一皿多く並ぶようになった。

そんなことを思い出しながら僕は台所に立っていた

ご飯まで炊いたところで、僕は食べたいものが思い浮かばずに立ちすくんでいた

冷蔵庫になにもないわけではない

肉も魚も、野菜だって十分に入っていた

でも、どうやって調理していいかわからなかった

結局考えあぐねた結果、僕はソーセージと卵と白菜チャーハンを作った

そうして出来上がったチャーハンを口にしながら、僕はあることに気づいた

流し台には、よごれたまな板包丁フライパンけがあった

それなのにお皿の上のチャーハンには、必要最低限の栄養がつめ込まれていた

そうだったのか

お皿が増えるということはつまりそれだけ準備も片付けも増える

嫁がバリエーション豊かなワンプレートご飯を作ってくれていたのは、忙しい生活の中でそれでも僕のことを考えていてくれての事だったのだ

白米で嫁が楽になったはずだなんていうのは僕の勝手思い込み

それどころか栄養を満たそうとしてサラダ煮物などもう一品増やしてくれてさえいたのだ

それなのに嫁は一言文句を言わなかった

もう、ありがとうもごめんねも永遠に嫁に伝えることはできない

のしないチャーハンを口に運びながら、涙は止まることなく溢れ続けた

ふと気が付くと僕は布団の中にいた。

涙で濁る視界の先には、静かに寝息をたてる嫁の顔があった。

続けて溢れ出る嬉し涙で視界が再び消えようとする中、僕は嫁の手を探し当てて強く握った。

寝ぼけながらも「どうした?」と尋ねる嫁に、僕はかすれた声で「嫁ちゃんの作ったチャーハンが食べたい」と続けた。

「もう!そんなことくらいで起こすなよ!」と素直に苛立つ嫁に叩かれた頭には確かな痛みがあった。

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