はてなキーワード: 書法とは
独学でレトロゲームを学び処女のアイドルと謳われたゲームソムリエール氏のほぼ全言動が、実際には所属事務所の元ゲーム業界人のオッサン氏の手になるものだった、という衝撃的な事件が世間を賑わせている。これに関連して、少し自分の思うところを書いておきたい。
メディアや芸能業界のあり方、またはポリティカル・コレクトネスについての議論はほかに譲るとして、ゲームソムリエールそのものについての話になる。今回の事件はかなり根源的な問題まで浮き彫りにした、というのがもっぱらの認識のようだ。人はゲームソムリエールに何を求め、何を根拠に評価しているのかということ。また純粋にゲームを勧めるというのはいかに難しいかということ。そんな問題についてだ。ここで私は、純粋にゲームを選んでプレイすることなど不可能であるのは当然として、そんなことを目指す必要さえない、という主張を述べたいと思う。
私が初めてゲームソムリエール氏の名前を知ったのは昨年、おそらく例のロムカートリッジを破壊する動画がUPされた直後のことだ。人づてに話を聞いて興味を持ち、ネットで検索してプロフィールやら言及する文章やらを読み、ゲームソムリエール氏のレトロゲームコレクションをネット上で目撃したと記憶している。そのとき強烈に残ったのは、まず違和感であった。
違和感というのは、そのレトロゲームコレクションのたたずまいとプロフィールや売り出し方とのあまりの乖離に対してである。端的に言ってそのコレクションは、80年代に幼少期を過ごした男性のコレクションのように思われた。真っ当にビデオゲームの洗礼を受け、ゲームを中心にサブカルチャーの波を揉まれてきた知性に優れる人間が、都度つど何らかの金銭の制約を自らに課しながらコレクションされたものだと「わかった」。今このようなことを書いても後出しだと言われるのはわかりきっているが、そう思ったのは事実で、おそらく80年代よりゲームに親しんできた心ある人間の多くが直感できたはずだ(実際、私の知るゲームマニアの幾人かは今回の発覚に対して「やっぱり」といった感想を漏らしていた)。アイドルを目指し上京した後に真実のゲームに目覚め、それまでの経歴を全て破棄した元弱小グループアイドルの一員が、常に轟音の鳴り響く中で霊感の降臨を待って収集した物とは、到底考えられない。プロフィールのそれらの言葉には薄ら寒さすら覚えた。オエッ。売り出すためのストーリーを誰かが描いている。事務所のオッサンははそれに乗じて悪びれずにいるらしい。そんな構図を漠然と思い描いた。
私はそのとき、彼女のコレクションを嫌った。いや、嫌おうとしたのだ。彼女が自らに課した書法の制約とは、売れるアイドルにするための――言い換えればマス・マーケットに届けるための――打算であったに違いないと想像した。売る気満々で集められた、嘘にまみれた、いやらしいパッチワークなのだろうと想像した。そうして想像してみて結局、最初の印象に戻るのだった。怖気の走るようなまがい物にしては「マニアごころをわかっている」コレクションに見える。真摯にレトロゲーム収集に向かわずしてこれが生み出せるのなら、随分な才能の持ち主なのだろう。その点だけは悔しいが認めざるを得ず、周りに評価を聞かれても曖昧なことを言うほかなかった。著書なんてもちろん買う気もしなかった。胡散臭い人間が胡散臭い売り出し方をしている、大量の嘘が混ぜ込まれた(はずの)コレクションが、見てみたら本当に見事な出来だった、なんてことになれば余計に悔しいし。そうそう、見なくたってわかる。きっと、見てて腹が立つようなコレクションに違いない。あーあ、ゲームソムリエールなんて、嫌いだ。
――見たまえ、ここに「物語」によってレトロゲームへの好悪を左右される情けない人間の姿がある。しかも漠然と思い描いただけの、自分の脳内で生み出した勝手な物語によって認識を歪められているのだから世話がない。私だけがこんな情けないのか? ……いや、そうでもない……ですよね?
【元ネタ】 これ読んでいたらふとゲームソムリエールさんのことが頭をよぎったんだ。