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2018-03-15

[] #52-2「カカオ聖戦

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「けど……ある意味チャンスなんじゃないかな」

「は?」

「俺たちがチョコ押し付けることもルール上ありなんでしょ?」

バレンタイン女性チョコをあげているのがポピュラーだが、別に明確なルールがあるというわけじゃない。

逆にいえば、その裁定個人に委ねられるわけだ。

弟のフレキシブルな発想に、俺はどこか感心していた。

「まあ、ナシではないだろうな……」

「よし、早速チョコを大量に買って戦闘準備だ!」

そう言って弟は家を飛び出していった。

当然、俺は不参加だ。

世間に振り回されない弟ならともかく、俺がやったら免疫細胞はたちまち死滅するだろうからだ。


…………

弟はありったけの小遣いをチョコに先行投資した。

チョコは質と量を考慮して、松竹梅でいう竹クラス勝負を仕掛けるらしい。

いざ、チョコばらまき作戦の開始だ。

「あ、マスダ、どうしたのそのチョコ。すごいじゃん」

その道中、話しかけてきたのは、弟の同級生であるミミセンだ。

大量に抱えていたチョコが同じ見た目の市販であることに気づくと、ミミセンは身構えた。

誰かから貰ったチョコではないことは明らかであったからだ。

バレンタインからな」

弟の思惑を知らないミミセンは、その発言に頭を抱える。

見栄?

だが、こんな見え見えなことをするとは思えない。

聡明なミミセンは、弟の人格と状況から分析して結論を導き出した。

「……なるほど、貰うんじゃなくてあげる側になってやろうってことだね」

「そう。ホワイトデーの見返りは、期待値が大きいらしいからさ」

「はは、よかった。気づいていなかったら、チョコ押し付けられるところだったよ」

しかし、ハナから弟はミミセンに渡すつもりはなかった。

ミミセンは、その呼び名の通り耳栓を常備している。

まり定期的に買っているということで、見返りを期待できるほどの預金はないと考えていたからだ。

実のところ、耳栓は親が買い与えていたもので小遣いとは別口だったが、弟がどう振舞っても結局は受け取らなかっただろう。

“先約”がいたことで、ミミセンは既に警戒心を高めていたからだ。

俺がテキトーにのたまったことだが、ホワイトデーをアテにする人間というのは存外いるらしい。

「でもマスダ、気をつけたほうがいいよ。タオナケは僕たち仲間にチョコを配っている」

弟がよく連れ立つ仲間の一人には、紅一点(ということになっている)タオナケがいた。

口癖が「私、女だけど」で、ちょっと主張が強い子だと仲間たちに認識されている。

そして押しも強いと認識されていた。

まりチョコ押し付けることに関していえば仲間内で随一なのだ

「既に僕は貰ってしまった。当日、たぶん無理やりにでも取り立てるよ」

その取り立てがどれほどのもの推し量ることはできないが、貰った時点でホワイトデー審判の日になるであろうことは想像に難くない。

弟はタオナケの出没を念頭に置きながら、作戦を完遂する必要に迫られたのだ。

漫然とチョコバラまくだけでよかったはずが、一気に難易度が跳ね上がった。

しかし、弟には奥の手もあった。

「そうか……まあ、タオナケにチョコを貰ってしまっても、ドッペルが俺に変装していたということにしてやるさ」

弟の仲間には、変装が得意なドッペルという子がいた。

特に俺の弟の真似は完成度が高く、身内でも油断すると騙されることがある。

最悪、そのドッペルを身代わりにして有耶無耶にするということも考えていたのだ。

「ズルいなあ……そういえば、今日はドッペルを見かけないんだよね」

「俺も見てないな。もしかしたら、お得意の変装で隠れて機会を伺っているのかもしれない」

「ドッペルは、マスダやタオナケと違って、そんなことしないよ」

「いや、そういう意味じゃなくて……」

そんな会話を二人でしながら歩いていると、町の大広場にさしかかった。

そこはいつも以上に人で溢れており、どうやら何らかのイベントをやっているようだった。

その中心には、見知った顔があった。

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