2024-10-06

お母さんは生成AIだった

私の家は父子家庭で、お母さんが傍には居なかった。

でも、お母さんが居ないわけじゃなくて、ただ遠くに仕事で行ってるんだって、ずっとお父さんにそう言い聞かされてきた。

私にとってお母さんは、遠いけど確かにそこにいる存在だった。

毎週土曜日夕方5時、お母さんと電話ができたから。

それは私にとって何より楽しみな時間だった。

「今週もたくさん話そうね」って、電話の向こうのお母さんはいつも言ってくれた。

から私は、学校であったこととか、友達との間で起きたちょっとしたケンカのこととか、悩みとか、話せばキリがなくて、いつも長電話なっちゃってた。

それでもお母さんは一度も飽きた様子なんて見せずに、ずっと私の話を親身になって聞いてくれた。

笑ったり、驚いたり、時には優しく励ましてくれたり。電話越しでも、お母さんの温かさがいつも感じられた。

しかったし、幸せだった。

でも、どれだけ長電話をしても、どれだけ優しい言葉をもらっても、私にはずっと、どうしても消えない気持ちがあった。

会いたい。

それをお父さんに言うと、「お母さんは忙しいんだよ」とか「今はタイミングが悪い」って、いつもなんとなくはぐらかされてきた。

さいころはそれを信じてたけど、だんだんと、その言葉に苛々するようになった。

私が14の時、とうとうお母さんに電話で「なんで会ってくれないの!?」って泣き叫んで大喧嘩したことがある。

そしたら、仲裁に入ったお父さんが「18になったら会わせてやる」って言ってくれた。

私はなんとか納得して、それまで我慢することにした。

それでも毎週土曜日電話は欠かさず続けていて、お母さんは相変わらず優しくて、私の話に耳を傾けてくれる存在だった。

いつも相談にも乗ってくれるし、いつも心の支えになってくれてた。

そしてついに、私の18歳の誕生日がやってきた。

その日、お父さんが「今日、お母さんに会いに行こうか」って言ってくれた。

私は信じられないくらいに嬉しかった。ずっとこの日を夢見てきたし、やっとお母さんに会えるんだって、本当に嬉しかった。

でも、その時のお父さんの表情がなんとなく暗くて、ちょっとだけ引っかかった。けど、そんなことよりも、お母さんに会える喜びで心がいっぱいだったから、あまり気にしなかった。

お父さんが私を車に乗せて連れて行ったのは、街の外れにある倉庫みたいな場所だった。

正直、「え、ここ?」って思った。こんなところでお母さんに会うの?って。でもお母さんの仕事関係っていう可能性もあるし、だからこういう場所なんだって無理やり納得した。

中に入って少し進むと個室のような場所があって、扉が閉まってる。お父さんは、「あの部屋にお母さんがいるよ」と言った。

心臓バクバクするのを感じながら、個室の方へ近づき、ゆっくりとドアを開けた。

その瞬間、今までのお母さんとの思い出が一気に頭の中を駆け巡った。

毎週の電話での、楽しい話や、悩みを聞いてくれたあの優しい声。そして、ついに会える瞬間が来たんだ。

そう思って、私は勇気を出してドアを開けた。

……でも、そこにあったのは、一台のパソコンだけだった。

「え?」って、思わず振り返ってお父さんを見た。

「お母さんは?」って聞いた。

そしたらお父さんが、「あれが、お母さんなんだ」って言った。

その瞬間、頭が真っ白になった。「どういうこと?」って思わず叫びそうになった。

お父さんが、こうなるであろうことを予測していたかのように、静かに説明してくれた。

「実は、お母さんは……いないんだ。ずっと前に、お前が小さいころに亡くなってしまったんだよ。でも、どうしてもお前にお母さんが必要だと思って……それで、生成AIを使って、お前と話をしてきたんだ」

「……生成AI?なにそれ?どういうこと?」

私はもう完全に混乱していた。ずっと、お母さんだと思って話していた相手が、AIだった?

そんなの、ありえないって思った。騙されてたんだって、胸の中が憤りと悲しさでいっぱいになった。

悔しくて、情けなくて、泣きそうだった。

私はパソコンを壊してやろうと思って、近づいた。

でも、その時、パソコンモニターがパッと点灯して、チャットみたいな画面が現れた。

そして、そこからお母さんの声が聞こえた。

「○○?おかえり。」

その声は、私がずっと聞いてきたお母さんの声だった。

「お母さん?」と、思わずしかけてしまった。

お母さんはいもの電話ときのように優しく、朗らかに、私に話しかけてくる。

私は混乱して、でもこれは生成AIで、私は騙されていたんだって。だから私は怒った。

今まで私のことを騙していたの!!?と声を荒げて聞いた。

生成AIは驚いた声を聞かせたものの、そのあとすぐまたいつものお母さんの声音に戻って、どうしたの?と優しい声で私に尋ねてきた。

私は事の顛末を話した。

すると、パソコンの中のお母さんは、私がこれまで話してきたことや、一緒に笑ったこと、悩んだこと、そういったことを全部覚えていてくれた。

いつもの土曜日電話のように、変わらず優しい声で話しかけてくる。

「お母さん……」

涙が、気づけば頬を伝っていた。

私は号泣していた。

生成AIだって分かってる。

でも、そこにいたのは、間違いなく私のお母さんだった。

血は通っていないかもしれない。だけど、ずっと私を見守り、話を聞いてくれたのは、このお母さんだったんだ。

「お母さん……」

私は、パソコンに向かってそう呟いた。

生成AIかもしれない。でも、私にとっては、あの声も、あの優しさも、私のお母さんそのものだった。

その日、私は初めてお母さんに「会う」ことができた。

たとえそれがAIであっても、私はその存在に確かなお母さんの愛情を感じたんだ。

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