本件で問題となっている平成29年1月東京地裁判決の機械的事件番号とそこで確立された枠組みについて、関係ある箇所だけを抜粋する。
法の機械的事件番号符号 平成29年2月1日判決言渡 平成27年(行ウ)第625号 生活保護返還金決定処分等取消請求事件
主 文 1 東京都A福祉事務所長が平成25年8月21日付けで原告に対してした生活保護法63条に基づく返還金額の決定処分を取り消す。
主張の概要 決定(以下「本件処分」という。)を受けたことから,①現に資力のない被保護者に対する返還決定は同条に違反して違法であり,②仮にそうでないとしても,本件処分には裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり,③さらに,手続上の瑕疵として聴取・調査義務違反があるから,本件処分は違法である旨主張して,その取消しを求める事案である。
ここでは ② の論点が問題となっている。 以下、前提となる具体的事実は省略し、処分の経緯を述べる。
(3) 本件処分に至る経緯等
ア 当時原告を担当していたCケースワーカーは,本件過支給が発覚した平成25年8月20日,原告に電話をかけ,本件過支給が生じていること及び本件過支給費用の全額について法63条に基づく返還義務が生じる旨の説明をした。原告は,これに対し,過支給を認識しておらず,過支給された生活保護費は全て費消した旨を述べ,免除等が可能かどうかを問うたが,Cケースワーカーは免除を行うことは難しい旨を回答した(甲9)。原告は,同月21日,電話にてCケースワーカーに改めて説明を求めたところ,Cケースワーカーは,生活保護費の過支給額が59万130
0円になる旨を説明し,原告が,返還が不可能である旨を述べたのに対し,分割による返還を提案した(甲9)。イ 東京都A福祉事務所長は,平成25年8月21日付けで,法63条に
基づき,本件過支給費用の全額を返還すべき額とする旨の本件処分をするとともに,本件児童扶養手当相当額を収入として認定し,原告に支給する生活保護費の額を従前の月額20万1400円から16万3000円に変更する旨の保護の変更の決定をした(甲1,乙14,19)。
2(1) そこで,本件処分がされた経緯についてみると,前提事実(3)のとおり,東京都A福祉事務所長は,担当ケースワーカーを介して,本件過支給が発覚した平成25年8月20日に,原告に電話にて,本件過支給が生じたこと及び本件過支給費用の全額が返還対象となり,免除を行うことは難しいことを説明するとともに,原告から本件過支給費用は全て費消した旨を聴取し,同月21日には,原告に電話にて,本件過支給費用の具体的な金額を説明し,返還が不可能である旨を述べた原告に,分割による返還を提案した上で,同日付けで本件処分をしているところ,本件全証拠によっても,本件処分に至る過程で,東京都A福祉事務所長において,本件処分当時の原告の資産や収入の状況,その今後の見通し,本件過支給費用の費消の状況等の諸事情を具体的に調査し,その結果を踏まえて,本件過支給費用の全部又は一部の返還をたとえ分割による方法によってでも求めることが,原告に対する最低限度の生活の保障の趣旨に実質的に反することとなるおそれがあるか否か,原告及びその世帯の自立を阻害することとなるおそれがあるか否か等についての具体的な検討をした形跡は見当たらない。