これは何年か前の私の実体験だ。
身バレを防ぎたいのでボカさせてもらうが、図書室の利用カードだったりPCのIDだったり、購買のポイントカードだったりを思い浮かべて欲しい。
カードを落とした私は警察に連絡を取り、「これこういう物をなくしました」と伝えた。
身バレを防ぎたいのでコレもぼかすが、スポーツチームのロゴだったりアイドルの顔写真だったりを想像して欲しい。
私が事前に伝えていた通りのシールも貼ってあったし、落とした時期も私が事前に伝えたとおりなので、まず間違いないとのことだ。
だが、電話の主はそのあと「では、カードの番号を教えて下さい」と伝えてきた。
え?待ってくれよ。
「某大学の、変なステッカーが貼られたカードで、最近ソレを落としましたと言われ、まさにドンピシャのものが見つかった」
ここまで状況証拠が揃っていてまだ本人確認が済んでないと言うのだ。
警察はおざなりな態度で「分からないなら学校に確認してくださいよ」と言ってきた。
仕方ないので学校に落とし物をしたことを話すと「いや、学生番号とかで管理してないから。分からんわ。再発行の書類書いて1000円くれたら再発行するから書いて」と帰ってきた。
警察に最終確認をして5分で終われば時給12000円じゃんと私は最後の確認を警察に取ることにして少し待ってもらった。
結果は言うまでもない。
警察は「番号が言えないなら本人とは断定できない。無理だ」の一点張りである。
5分ほど押し引きがあったが警察は「番号が言えないと渡せない。そう決まっている」と譲らない。
私は諦めて1000円払うことにした。
彼らはそれを決して返そうとしないから。
あとあと考えてみればそれは公務員的な処世術として完璧に近い。
落とし物を探すことを受け付けなければ怠慢となるが、もし曖昧な情報で渡していると難癖をつけられれば問題になるという矛盾を見事に解決している。
預かるだけ預かっておいて、難癖をつけて本人には決して返さず、そうして期限切れを理由に捨ててしまえばいい。
賢い。
どんなに聞き慣れても子守唄の代わりにはならないあの騒音、そして時折聞こえる極めて民度の低い叫び声。
神奈川において県民を守るためには警察は強くあらねばならない。
強く、強くあろうとした結果として、人の心を捨てる必要があったのだ。
なお、この話はフィクションです。