「あの船の業務から帰ってきた職員を一刻も早く全員検査して自宅待機にすべきです。」
「そんな事して、もし何人も陽性になったらどうするんだよ?このクソ忙しい時に人手が足りなくなるぞ。お前責任取れるのかよ。」
「しかし、もし1人でも感染して帰ってきたらここ(霞ヶ関)も安全ではなくなってしまいます。」
「あのなぁ、検査するって事はあの船の中の現状に疑念を持ってるってことなんだよ。わかるか?昼も夜も必死で頑張ってるやつらの気持ちになって考えろよ。今はみんなで一丸となる時なんだよ。」
「橋本議員もカンカンだったじゃないか。どうするんだよあのクルーズ船の周りから更に感染者が出てきたら。あいつのオヤジ総理大臣だったんだぞ。」
「それは関係ないでしょう。」
「関係なくないよ。国会議員なんて面子で動いてんだから。二世どころじゃなく三世議員なんて面子3人分だ。あいつが"不潔"の写真をfacebookページから削除する時にどれだけ指がガクガク震えてたか想像してみろよ。」
「ガク...ガク...?」
「もういいよ副大臣のことは。」
「逆にこのまま検査せず数日後にうち(厚生労働省)から肺炎になる職員が出てきたらどうするんですか。」
「そんなのタクシーで感染したかもしれないし電車の中でかもしれないだろう。もう既に感染経路は分からなくなってるんだよ。ウイルスは目に見えないんだから。」
「うちの(省の)誰があの船に行ったかの名簿をマスコミが照らし合わせればすぐにクルーズ船に関わってたことがわかりますよ。」
「保管期限は?」
「は?」
「豪 華 客 船 で 感 染 症 が 発 生 し た 時 に 作 成 す る 文 書 の 保 管 期 限 は どれぐらいだって聞いてるんだよ」
「消せよ。」
「えっ。」
「今すぐにだよ。前に内閣府の連中がやった時は野党議員の事前通告の後だったから、あれタイミングが悪かった。俺たちはそんなヘマはしない。」
「いや、でも今回の名簿はメールで配布したのでシュレッダーで終わりというわけには...」
「大丈夫だよクラウドってのにあるやつでも『もう無いです』って言えば。誰も探せないんだから。探せないデータは存在しないのと一緒なの。」
「保身...ですか?」
「保身だなんて人聞きの悪い言葉使うんじゃないよ。これは国のためなんだよ。野党とかマスコミに無駄な時間を費やさずに俺たちがちゃんと仕事を遂行するためなんだから。」
「...もう記者会見の時間です。検査を行わない理由を説明しないといけませんが。」
...ニュース『厚労省内で検査が一度は検討されたものの、陽性者が多く出た場合の業務への影響などを考慮し、見送られたということです。』