映画未見。感想だけ読んで、こんな話だったら~? と妄想が湧いてきたので、書いてみた。
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テクスチャも何もかも剥がされてボロボロになったスラりんは、自分の状態を全く顧みずに、オレを回復させようとホイミを何度も何度もかける。
しかし、この世界が偽物という現実を突きつけられ、大魔王に抵抗する気力をなくしたオレは立ち上がることもできなかった。
「いいよ、もう……ピンチになるとお前がホイミをかけてくれるの嬉しかったよ……でも、それも HP が減ったらホイミをかけるだけのただのプログラムだったんだな……」
大魔王は、絶望しきったオレを眺めて愉悦の表情でも浮かべているのだろう。
大魔王のセリフとともに、地面が、空が、建物が、そして仲間がテクスチャを剥がされていった様子がフラッシュバックする。
『お前の、信じていタ、ものは、すべて、プログラムされた、偽物、だっタ、のだ』
仲間は、実体と表情をなくしたワイヤーフレームのまま戦い続け、そして倒れていった。
そんな中、周囲をピョンピョン逃げ回って牽制役を務めるスラりんを、大魔王は過剰な攻撃魔法で吹き飛ばしながら、いらついた様子でが怒鳴った。
ふと HP を見る……とっくに満タンだった。じゃあなぜホイミを?
わずかに顔を上げると、あちこちが欠けたワイヤーフレームになってしまったスラりんが、必死にホイムをかけ続ける表情が目に入る。
「……お前……プログラム……じゃない?」
『今のお主には何の話かわからないだろうけど、聞いておいておくれ』
ビアンカとの結婚式の後、たまたま一人でいたところに、全く見たことのない老婆が話しかけてきたことを思い出す。
『フローラ嬢ちゃんも、最初は決められた運命に従っているだけじゃったろう。でも「いろんなお主」に出会い、お主に想いを寄せる娘を知り、二人を大切に思う気持ちを育んだのじゃ。その心は本物ということだけは、どうか忘れないでおくれ』
そのときは何を言っているのか全くわからなかった。今なら、わかる……かもしれない。
「……ああ。わかったかもしれない」
そう言いながらようやく身を起こしたオレを見て、スラりんは、ワイヤーフレームなのに、たしかに嬉しそうだった。
「え? そうなのか? じゃあ……」
立ち上がり、勇者の剣を構える。大魔王に……ではなく、スラりんに。
「スラりん……オレは、スラりんを信じる。だから……オレを信じてくれ……!!」
スラりんは微動だにせず、オレの言葉を、行動を待っている。そんなスラりんに、オレは輝き始めた勇者の剣を振りおろした!
「なニ!?」
「勇者の剣は、偽物を切る剣……」
スラりんに被せられていたワイヤーフレームのテクスチャが切り裂かれたその下から元のスラりんが現れたことを確認しながら、オレは次第に光を強くする勇者の剣から伝わってきたその意思を噛み締めていた。
勇者の剣でもう2度斬りつけると、スラりんはすっかり元通りとなり、喜んで飛び跳ねていた。
虚空に向かって勇者の剣を振るう。ワイヤーフレームになっていた床が、壁が、空が、世界が、どんどん元に戻っていく。
「ヤメろ! ワたシ、ノ、世界ガ!!」
「そうか……。お前はウィルスだから、世界のリソースを奪って存在していたのか」