「サマータイム法が通れば、あなたは不老不死を手に入れるのです」
あのとき、あの男はそう言った。もう、遥かな昔の話だ。
その頃の私は、ニホンという国で要職に就いていた。国のためにと思って身を粉にして働いていたが、国民が報いることはなかった。何をしても批判の嵐だ。
そんな私にあの男は近づいてきて、時間を貸してくれと言ってきたのだ。
まぁややこしい話なのでかいつまんで話すと、その男には時間を操る能力があり、ただ、その能力の原資は時計の針の狂いなのだという。狂った時計が間違えて測った時間が人間の意識から失われ、男の元にやってくるのだと。そして男は最近とある事情から莫大な時間が必要になり、その時間を工面するために私のところにやってきた。私がサマータイム法を通せば2時間の狂いが国民1億2000万人分手に入るのだと。それはもちろんタダで手に入れようとは思っておらず、私から借り受けて私に利子をつけて返す、そうすれば私の所持時間は莫大なものとなり、その利子だけで生きていけるのだと言っていた。
私は馬鹿馬鹿しいと思ったよ。しかし、この話がもし本当だとしたら私はこの国の滅ぶところまで見届けることができる。文句ばかり言う国民の最後を見届ける、それはきっと愉快なことに違いない、そう思った。
そもそも誰に感謝されることもない仕事だ。だったら、自分のためだけにやってみたところで何も変わらないのではないか?そう思ったのだ。
そうして私は尽力し、サマータイム法は通った。日本中の時計が2時間狂い、あの男は何かを成し遂げ、私に時間を利子付きで返す。そうすれば私は不老不死になれるはずだった。
だが、とある博士の発明がその計画を台無しにした。あの博士はあろうことか時間をそのまま操ることで、時計の針を狂わせることなくサマータイムを実現したのだ。
その結果は驚くべきものだった。気がつけば何万年だか何十万年だかの時間が経っており、ニホン以外全部全滅していた。
私は慌ててあの男に会いに行った。この想定外のイレギュラーにあの男はどうしているのか?男の部屋には、手紙だけが残っていた。
『自分は当初の計画通り2万5千年という時間を手に入れたら、その分時間を遡って世界史の様々な謎を解いて回りたかった。しかし、博士の発明により動くことのない時間の中に閉じ込められてしまった。これはひどい絶望だ。だから命を絶つが、これを読むのはおそらくサマータイム法に尽力してくれた君であり、君には最後に私の能力を贈りたい。もし君にその気があるのならば、私の懐中時計を懐にしまうと良い。それだけで君は、タイムトラベラーになれる。今の君なら(この止まった時間が何年後に解けるかはわからないが)過ぎ去った時間の分だけ時間を溜め込んでおり、時間においては神になれるはずだ。君の幸運を祈る』
男の懐中時計と思われるものは、手紙のすぐ近くに置かれていた。その時計は、サマータイムが始まったあの時を指しているままだった。
私は迷うことなくその懐中時計を懐にしまった。すると、一瞬でわかった。この時間が、どれほどの歪みの中にあるのか。そして、自分にはそれを修正できる能力が備わっていることに。
サマータイムが始まってから、この国は混乱していた。今はまだ混乱だけで済んでいるが、この先発電用の資源が尽きたら混迷に入り、そう長くは保たず壊滅するはずだ。
私はこの国の滅ぶところが見てみたいと思った。いくら仕事をしても全く良くなっていかないことに苛立っていた。だから、このまま放っておいても良かったのだ。今の私には、億年を超える寿命がある。この国どころかこの星の最後を見届けられるかもしれない。
でも、それはつまらない。
素直にそう思った。私という人間には、超越者としての在り様ではなく、ただの国の歯車として働き、そして死ぬのが一番向いている。だから、この国を元に戻そう。
そうして私は過去に遡り、私を殺した。
このサマータイム法を通すのに一番尽力したのは私なのだから、サマータイム法をそもそも通さないためにはそれが一番なのだ。
時間が修正され始めた。あの未来が消えていくことを懐中時計を通じて感じる。これでこの国は救われる。
そして同時に、パラドックスが私の存在を消していく。それは当然ながら覚悟していたことだ。きっと私のことは、ただのバグとして誰の記憶にも残らなくなってしまう。そもそも、誰もあの未来があったとすら思わない。
それだけが、少し、悲しい。
https://anond.hatelabo.jp/20180906085723
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おもしろかったです。
プロかよ
ジュール・ヴェルヌの『80日間世界一周』でそういうトリックが使われてなかったっけ?
あれはサマータイムではなかったな。世界一周したら時差の蓄積がちょうど1日分たまったという話。(で、すぐにはそれに気づかなかったという話)
ガーシュウィンの『ポーギーとベス』 Porgy and Bess