「おーし、今週も始まったぜ」
俺はこのアニメには大して関心がないが、15歳以上の人が同伴しないと観てはいけないことになっている。
そんなことを律儀に守ろうとしているのは子供も大人も一握りだと思うのだが、いかんせん身内がこのアニメのスタッフなので体裁を保たなくてはいけない。
弟はテレビのこの文言が聞き飽きたらしく、茶化し気味にセリフを真似て遊ぶ。
形骸化した注意事項は、子供たちにとって朝礼での校長みたいなものだ。
『あと……』
「あれ?」
だが今回はいつも違っていて、その後に更にセリフが続いていた。
『この作品に登場するキャラは武器を使って戦っているけど危ないので、良い子も悪い子もその両方を持ち合わせている子も真似しちゃ駄目です』
それを観た弟は、真顔でしばらく固まっていた。
俺もどう反応するべきか戸惑っていた。
CMに入ると、弟はやっと我に返った。
そんなこと、俺に聞かれたって困る。
「まあ、要はアレだ、アレ……ゾーニングだ」
実はよく分かってない。
「だが、いずれにしろ語るべき点は変わらないだろ? セーフかアウトかだ」
「セーフかアウトかの具体的な基準なんて知らねえぞ。どこまでがセーフで、どこまでがアウトなんだよ」
知らねえよ。
俺もこんなことをして意味があるのか疑問は湧いてくる。
俺は弟をなだめて場を凌ぐために、どこかから借りてきた言葉を織り交ぜて説くしかなかった。
「えー……ともかく、子供が真似したら危ないってことで、その注意喚起なんだよ。万物は大なり小なり影響力があるから、配慮をしなくちゃ」
「そんなの、わざわざ言われるまでもないことだろ」
「自分中心で物事を語るもんじゃあない。お前はそうじゃなくても、この世のどこかにいるんだよ」
「言われても言われなくても、やる奴は結局やる。そして、それはそいつがバカなだけだ!」
「弟よ。お前が思っているより、子供ってのは未熟なんだ。お前の言うとおり子供がバカなせいだったとして、その責任を当人は取りたくても取れない」
当然、ここでいう“大人”ってのはアニメを作る側と、そのアニメに対してクレームを言う側両方だ。
だが、弟にそこまで説明すると話がこじれそうなので省略した。
「そんなもん保護者が躾れば済む話だろ! なんなら他人でもいい」
弟の疑問は俺には荷が重過ぎる。
子供は黙ってアニメを観ているか、黙ってアニメを観ないかのどちらかなので、俺の立場から言えることは少ない。
仕方がないので適当にそう答えた。
「なんだそりゃ、アニメを親だと錯覚しているとでも? まるで野生児だな」
俺の中では一応の筋は通っていたつもりだったが、予想外に弟のカンにさわったらしい。
俺は慌てて訂正しようとする。
「おい、悪意のある拡大解釈はやめろ。俺の友達には、親の顔よりスマホを見ている奴が数人いるが、スマホに育てられたと思っている奴は一人としていないぞ」
「そうなんだ、どうして?」
アニメキャラを模したグッズに対して似たようことをしている友達もいるんだが、話がややこしくなるので省略した。
あと、会話の内容が本題から逸れていっているような気もするが、弟が何も言ってこないのでそのまま話を進めた。
そうして何とか凌いでいた時に、CM明けという助け舟がやってきた。
「ほら、もうすぐ始まるぞ」
助かった。
やれやれ。
出来ればアニメを観ている間に、俺の言ったことも含めてすっぱり忘れててほしい。
俺たちがこんなところで口論をしても大して意味はないんだから。
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