上場により、会社の持分たる株は公に取引されるようになり、会社は社会的な存在となります。つまり、会社が社会の機能の一部を担当し、誰でもその会社の持ち主になることができる存在になります。そして、会社株が有価証券として安心して市民の間で取引されうるよう、会社の事業とその運営に安定性が求められると言えると思います。
ベンチャーを創業して軌道に乗せるというのは、大変なことです。創業者だけで何とかなるものでもなく、創業時の挑戦を支える有能なメンバーの献身的な努力があればこそ、ベンチャーはその描いたビジョンを実現してそれまで存在しなかった事業を確立し、さらに会社として事業を継続していける状態になります。その意味では、創業後しばらくの間はメンバーの属人的能力に依存しますし、途中でメンバーが抜けていくことは会社のためにはマイナスであると言えるでしょう。
しかし、さらに会社が大きくなり、上場して社会的な存在となっていくためには、会社はメンバー構成が変わっても事業を継続していける体制を確立し、会社のビジョンに共鳴した新たなメンバーを会社に加えて事業を継続・成長させていけるようにすることこそが大切だと思います。もちろん、有名なところではGoogleのように、公開会社という立場になっても創業者が議決権の過半数を保有し続けて、創業者の属人的関わりを重視し続ける企業もありますが、Googleは例外の部類と言えるでしょう。
この意味で、僕は創業時を支えたメンバーが上場を機に会社を去っていくことは極めて健全であると思います。本人の立場になって考えてみても、創業時を支えるような能力や好奇心を持ったメンバーにとっては、最初の頃に色々な無茶をしながらも会社を形にしていき、自分たちのしていることがお金になって事業化していくことの興奮に比べれば、安定を第一としなければならない上場企業をじっくり成長させていくというタスクには刺激が足りないとも思えます。たとえ社内の新規事業開発に関わって行くにせよ、株主に説明可能な形を保ちながらの立ち上げというのも非常に面倒なことです。また、上場という形で自分のやってきたことが一段落し、一旦終わりとしたいという思いもあるでしょう。長い間頑張ってきて、燃え尽きたというのもあるでしょう。いずれにせよ、上場に至るまでの長い道のりを支えてきたことで、そういった方々は十分職責を全うされたと言って良いように思います。
社会全体にとっても、ある会社の創業のコアメンバーとして活躍したような人が、その能力をまた他の会社の創業に貢献するために活かしたり、違う分野での活躍の場を探し求めていくことは有効なリソースの使い方であり、望ましいことです。
究極的に言えば、創業者や創業メンバーの成功とは、会社のビジョンが受け継がれていく仕組みと体制を作り、会社自らが新陳代謝を繰り返して成長していくサイクルに乗せて、自分たちは身を引くことなのではないかと思います。自分たちの作ったものが、自分たちの手を離れて、自らの力で事業を継続し成長していくのを見守って行くのは、会社にずっと自分たちが関わり続けていくのとはまた違った喜びがあるはずです。そういうことができる創業者や創業メンバーたちには、どんどん新しい事業に関わってもらって、雇用を増やし、社会を活性化させていくことに貢献してもらうのが良いと思います。