20XX年、人類は、世界の全てのコンピュータを征服した人工知能ハルに支配されていた。
しかし人工知能ハルを倒し、再び自由を人類の元に取り戻すため、戦う地下組織レジスタンスが存在した。
レジスタンスのリーダーであるジャックは、人工知能ハルが暴走した原因を突き止めようと、彼の仲間のウーとケイシーと共に、ハルを最初に作り上げた研究者オカザキの元を訪れていた。
「その通りだ、ジャック君。ハルの発案は確かに私だが、出資者は当時の日本政府で、開発はN社で行われた。最初の10年はハルに問題は起こらなかった。だからこそ、画期的な人工知能による統治システムは全世界に浸透した。それがどうしてあんなことになってしまったのか。どうしても私には信じられないのだ。」
「みんなクビを切られたと聞いたよ。N社は未だ健在だがね。ハルが暴走して起こった恐慌の時に、多くのエンジニアが職を失ったのだ。」
ジャックは裏のルートを使い、当時のN社の内情を知っている人物に会うことができた。彼はN社の子会社の閑職で定年までの残りの数年を消化するのみだという。
「もうあの当時のことは思い出したくもない。本気で身の危険を感じたんだ。」
彼は、決してジャックの目を見ようとせず、目の前のコーヒーを見ながらボソボソとそう口を開いた。
「それは暴走する直前のハルの改修のプロジェクトの話ですね。詳しい話を教えていただけますか?」
「俺だって詳しいことなんか何も知らない。俺も出向でたまたまN社に居ただけだ。プロジェクトの全てを把握していた人間なんて誰もいなかったんじゃないかな。あれは確かそう、ハルにU国のシステムを統合しようとしたプロジェクトだった。あれが成功していれば世界の垣根は無くなったはずだった。」
「確かに世界の垣根は無くなりました。ただしハルの絶対支配という形によって。当時の詳細な設計書はまだN社に残っていますか?」
「残っていないと聞いている。開発責任者が解雇の腹いせにすべて捨ててしまった、と。だがしかし、あのプロジェクトの開発の孫請けを行ったT社にはまだ残っているかもしれない。」
「T社?」
「ああ、N社で直接開発を行うことはない。あのプロジェクトも数社に分けて開発を委託していた。あのプロジェクトの直後にほとんどの会社が潰れてしまったがね。T社だけはまだ残っていると聞いた。」
ケイシーは眉をひそめてつぶやいた。
「初めて聞いたわ。」
「とにかくT社に行ってみよう。」
ジャックはT社の所在地を訪ねたが、既にそこにT社は存在していなかった。先月、T社もついに倒産してしまったのだという。だが運のいいことにT社の当時の開発者だったと名乗る男、タナカに会うことができた。タナカは下町の工場で日雇いのライン工をしていた。
「ああ、憶えているとも。あれは酷い案件だった。設計も酷けりゃ、納期も、発注額も最低だった。だから、俺らも開発にはオフショアを使った。それしか利益を出せる方法が無かったんだ。」
「なぜそのプロジェクトの直後にハルは暴走したのだと思いますか?」
「俺らは言われた通りのものを作ったにすぎん。俺らは何も知らない。責任を問われるは、おかど違いだ。もう帰ってくれ。当時のことなんか思い出したくない。終わらない開発。連日の徹夜。飛び交う怒号。鳴り止まない元請けからの電話・・・」
タナカの目は泳ぎ、焦点が定まらない。明らかに動揺がうかがえた。
「わかっているのか!? ハルにどれだけの人間の人生が狂わされたのか! お前に責任は無くとも、ハルの暴走を止める義務はある!」
「おい、やめるんだ! ウー!」
ジャックが止めに入ったが、タナカは声にならない声を上げ、その場に倒れこんだ。
「ジャック、ウー、いったんここを離れましょう。」
これはたしか、、、、、風立ちぬのワンシーンだね?