2017年春期アニメも折り返しを迎えました。今期は話数の関係で途中総集編の入るアニメがちらほらあり、月がきれいもその一つでした。
今日は、私が今期楽しんでいるアニメの内TOP3に入るこの作品について紹介したいと思います。
紹介といっても7話までのネタバレが入るので未視聴の方は諦めてください。
月がきれいは原作のないオリジナルアニメで、ジャンルは中学生を主人公とした恋愛ものです。
現実世界と全く変わらない世界観の中で、特別な能力も人脈も持たないごく普通の登場人物達の物語がそれでも特別であるのは、このジャンルの強みと言えるかもしれません。
物語の筋それ自体はこれまで連綿と語られてきた恋愛物語とくらべて大きく捻りがあるわけではありません。
主人公である安曇と水野が中学最後の1年間を同じクラスで過ごすことになり些細な出来事を重ねお互いの関係を深めていく、普遍的な物語であると言えます。
では新しい要素とはなんでしょうか、そうLINEです。
作中においてLINEは現実世界と同様に事実上の生活インフラとして登場人物達に活用されており、これは物語の演出上も大きな役割を担っています。
第1話で水野は安曇へLINEのIDを渡し二人のやり取りが始まります。これには同じ体育祭の用具係であるという口実があり、作中の基準においても極めて自然な行動です。
そして二人の距離は体育祭での出来事を重ねて近づいていきますが、体育祭が終わると校内での接点がなくなってしまいます。この間二人を繋いでいたのはやはりLINEでした。
この物語において二人の関係性を進展させるポイントは対面時のアクションにありますが、それが可能なだけの関係性をLINEで醸成していくというのが基本的な構造になっています。
LINEではなくメールでも同じではないかという考えもあろうかと思います。しかし画面上また演出上においてもLINEの特徴が生かされているのが本作品です。
主にはその即時性と一覧性です。2話のラストから3話にかけて、二人のLINEでのやりとりが一つの画面内でポンポンという通知音とともに小気味よく重ねられていきます。
各話のEDでは、ある二人のLINEでのやりとりが描写され、視聴者はそのスマホの画面だけを見て物語を読み取ることができます。
文章の内容だけでなく時間と頻度を一覧できることから会話のログであるかのような情報量があり、それでいて実際の会話とは一線を画しています。
安曇は3話で「LINEでなら(水野と)話せるのに」と一人こぼしますし、4話で水野は安曇に「もっと喋りたい」と答えます。
7話で千夏は宮本と佐藤の前で改めて涙しますが、その後水野へ送ったスタンプの絵柄は愛らしく、実際の感情とのギャップが表現されています。
また、4話では安曇からのLINEに対する水野の返信に既読がつかないことから、トラブルの予兆が水野に与えられています。
先に挙げたような、今我々が用いているツールに関連する描写が物語に現実感を与え、視聴者がキャラクターの心情に寄り添うことをとても容易にしています。
恋愛物語を描くにあたってLINEを排除、あるいはメールと同様に扱うことはまったく難しくなく、実際にそういった作品も多々あろうかと思います。
しかし本作品においては真逆の方針を取り、それが結果として現実に極めて近いリアリティラインを構築しています。これはあるいは順序が逆かもしれませんが。
物語は、主人公が変に優柔不断でウジウジしてみたり強い力によるすれ違いが起きたりといった都合的な動力によらず進んでおり、視聴後は爽やかな気分になります。
キャラデザ・美術・音楽・演技(プレスコです)・脚本といった各要素が同じ方向を向き有機的に絡み合って本作品を構成しており、LINEもその一要素であるという話でした。