2024-02-05

虐待されていた

今でこそ5人に話せば5人全員が驚いた顔で「それは大変でしたね」と言ってくれるような生活ぶりだったものの、

虐待されている最中にはそれを説明する言葉を持たなかったので、周りの人には信じてもらえず、

虐待内容そのものよりも、周りの人から被害妄想の強い子だ」と思われているのを察するのが辛かった

特にいい人が「困った子だなぁ」という苦笑を浮かべ、やんわりと離れていくのが悲しかった

今ではもっともな対応であり、私がまともな人だと思った人はやっぱりまともな感性を持っていると再確認する一方で、

やはりそのまともの輪に自分は入ることができなかったのが心に暗い影を落としている

子供なりの精一杯の考えと努力も、家庭環境という重く暗い渦から逃れる術にはなり得なかった

足掻けば足掻くほど沈み、努力も工夫も系譜という鎖の延長線から外れることのないことを知り、

現実と地続きに存在たかつての絶望は、それが遠い過去になった今も、時々現実些細な出来事きっかけに眼前に現れる

引きずり込まれ、呑み込まれ、全てが無価値になる絶望だけの生に塗りつぶされる

人々の日常平穏さの延長線上、たとえば薄い集合住宅のドア一枚を挟んだところに、

どれほど人の尊厳無意味にする支配暴力が巧妙に隠されているかを知っていて、

世界の明るさが奇妙に遠く、空虚に感じられる感覚

それが忘れられない。生きているすべての瞬間に、自分を無価値だと感じる瞬間への暗示がかかっている

思考努力、私の感じうる喜びの無意味

それらは誰にも届かないし、誰にも価値を認めてもらえない

から人の価値観に身を委ね、人が好きだと言ったものだけを私の判断基準に据える

するとそんな人間はつまらないのだ

私には得るものがあっても、私が見せることのできる新しい世界はどこにもない

私の本当の、暗い世界は人には見せられない

人生の根幹を隠して生きている。それは無価値無意味から

他の人が溌剌とした生を謳歌する時間を、ひたすらに生きるための忍従に費やした

何の価値も生まない、無価値な生の上に立っている

価値な生の土台の上に、空虚な明るい砂でできた城を建て、

城は私が動揺するたびに音もなく崩れる

崩れる前、どんな形をしていたかも覚えていない

人は人格というものを確かめ合うためにこの城の形を確かめものから

慌てて急ごしらえの城を建て、それらは一時的に人の目に留まり

次に会う時には全く異なる城ができている

大きさはさほど変わらず、形は既に原型を留めない

城は本来人生と共に増築されて大きく、深くなるものだけれども

私は変化し続ける奥行きのない城を建てては壊している

思い出話の中で、ふと他の人が私について話してくれることがあり、

記憶の茫漠の彼方の、私にとっては他人事のようなそのエピソードを聞くと、

私より他の人の中に私の影が残っていることを知る

私の中に私はいない

はいないし、私以外の誰もいない

ただ他人の中に私というラベルの貼られた動く映像がある

それを証明できる私がいない

私が見た他の人の映像もまた存在しない

それでも生きている

生きながら死んでいて、死んでいるのに消費している

魂を吸われて、抜け殻だけが寿命を待っている

今日もまた窓の外が明るい

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