好きな寿司屋がある。
都内の二級河川沿いにある店で、今の会社に転職した頃からのお気に入りだ。
何がいいって、安いんだよ。コスパがいい。銀座とか、目黒とかの寿司店で二万円近く出して食べるディナーの味が、わずか三千円で堪能できる。それくらいネタがいい。店主の技術も冴えていて、ネタの上にお洒落な細工がしてある。どこで仕入れてるかは不明だが、昼時に行くとまだ新鮮なネタが活きていて、脳がびりびり痺れるような旨味を楽しめる。
店主は一人でやっていて、80代後半くらいか。認識はしっかりしてる。根が明るいタイプの人で、若い人が店に来るとテンションが上がることがあって……いや、このぐらいにして本筋に移ろう。
先月、後輩をその店に連れて行った。不定期営業なので、事前に(追記 自分の場合は数日前までに)電話で確認しないといけない。その意味では狙った日に行くのはちと難しい。
店主は、まだ二十代そこそこの後輩を見ると、みるみるうちに上機嫌になって、「さあ座ってよ」と言ってくれた。ほかに客はいない。いつも少なめだ。こんなに旨くて安いのに。まさに隠れ家といえる。
後輩も自分も、握り寿司一人前(10貫)を注文した。食べてる最中に、店主がおまけとばかり赤だしと、かっぱ巻き×10と、軍艦巻きじゃないウニをサービスしてくれた。酒がどんどん進んで、想定よりも長居して、二人で8,000円ほど払って店を出た。
「うん。載ってないな。前に載ったことがあるけど、運営に連絡して閉店表示にしてもらった。検索に出てこないだけでページはあると思う」と答えた。
後輩は「は?」みたいな顔になっていたと思う。隣を歩いてるので推測だが。
1点目に、食べログにああいう店が載った場合、きっと多くのお客さんが尋ねてくるだろう。すると、一人でやっているあの高齢の店主がてんてこ舞いになって、営業的にパンクする可能性が高い。事故が起きる可能性だってある。
2点目が不定期営業だ。必ず営業する日というのはない。営業する可能性が高い日はあっても、確かな情報しか食べログには載せてはいけないと思う。同じ理由で、グーグルマップにも一度だけ掲載されたことがあったが、「現在は営業していません」と削除申請をして通っている。
隠れ家は隠れ家のままにしておきたい。運に選ばれた人間だけが楽しめる世界だ。食べログとかに載ってる時点で隠れ家ではない。
この寿司屋以外に、コスパ最高でフンイキ最高のお店をふたつ知っているが、どちらもインターネットに情報がない。片方の店は会員制で、もう片方の店は普通の飲み客は決して入らないであろう通りに店を構えている。それで、通だけが飲み食いをしているというわけだ。
そんな感じのことを、帰りの電車の中で後輩に説明したが、残念ながらわかってもらえなかった。まだ若いというのもあるだろう。
これもまた現実のひとつだ。すべての情報が万人に開かれてるわけじゃない。情報とか資源とか人間関係とかには常に偏りがあって、その中で自分にとっていいものを選び取っていく必要がある。彼もわかる日が来るだろう。
おっドラマ見たんか
そんなドラマがあるんか 孤独のグルメみたいなやつ?
店が忙しい時に電話してくる迷惑な客がいると聞いたけど、正体はお前かよ 近所の散歩がてら店に寄って、直接店主の爺さんと世間話しながらネタの仕入れを聞いたりして店に行くかど...