幽霊はその人が死ぬ前に持った強い感情の残りらしい、と俺は良くおばあちゃんから聴かされた。
一年前くらいに、友人からラインで相談をうけた。なんでもその友達は、夜になると自分の玄関で、髪がボサボサ、血だらけの女の幽霊を見るらしい。
なんでその友達から相談を受けたかと言えば、俺がその部屋を友達に受け渡したからだ。
住む前に大家さんには確認をとったし、事故物件のサイトでも調べた。自殺した人はいなかったはずだ。
立地的には駅に近く、交差点から少し進んだ先にある安アパートで友達は俺を羨ましがってた。
幽霊を見た話をすると「そういうのは信じない」というから、俺が実家に戻る時に友人にその部屋を紹介した。友人もその部屋が事故物件ではない事をちゃんと確認し住んでいた。
友達が見た幽霊は、俺が話した幽霊と一緒だった。扉をダンダンと叩く音がして、外を覗くと血だらけで髪がボサボサの幽霊が居る。体はあちらこちらが削れて、明らかに生きているそれじゃなかった。
友人も叫び声を上げてガタガタ震え布団に暫く隠れたらしい。俺が変な話をしたせいで見るようになったと友達は軽く怒っていた。
俺も見た時は就活の時期で疲れていたし、ストレスだとは思った。しかし幽霊は信じないが当時は怖くて、翌朝逃げるように実家に帰り、一か月ほど賃貸料を無駄に払った後その友達に渡したのだ。
結局その友達はその部屋を後輩の研修医に受け渡したらしい。俺もその後輩と会って飲んだことがあるが、そいつは自分は唯物思想だから目で見たものしか信じないと言っていたことを覚えている。
一月前、営業で同じ駅に行くことがあり、夜に自分の住んでいたアパートを一人で見に行こうという事になった。
幽霊が何か死ぬ前の強い感情の残りなら、なぜそんな強い感情があのアパートに残っていたのか。行ったらそれがわかるかもしれないと交差点に行ったとき、その後輩の研修医に声をかけられ家に向かうことになった。
今は研修医ではなく大学病院で医者をやっていて、コロナの重症患者の機械を操作したりしてるそうだ。今度はまた別の科に行くらしい。
凄いなと思いつつ、件の幽霊の話をすると、その医者も一回だけその幽霊を見たことが在るらしい。友達から幽霊の話を聞いていたが、夜勤前でぼーっとしており扉を叩く音でただ事でないと思ったらしい。
覗き穴から女を見ると出血が酷く、「大丈夫ですか!」と言いつつ処置をしなければとドアを開けるとだれもいなく、それ以来一度も幽霊を見なくなったというそうだ。
その話を聞いて、なんだか非常に引っかかる事があり、嫌な予感が浮かんだ。ひょっとして俺は今まで幽霊を一度も見たことが無いんじゃないか、と。
帰りの電車で俺はアパートの周辺住所をニュースで調べると、ある記事が出てきた。
アパートの近くの交差点で交通事故があったという記事だ。深夜に女子大生が、夜中にスピードを出してるタクシーに轢かれ50メートル引きずられ、そのままタクシーの運転手は逃げたらしい。
女子大生はそこから少し離れた茂みで発見されたそうだ。夜中に猛スピードで走っているタクシーをたまに見るが、あれに引きずられたと考えると恐ろしい。
タクシーの運転手結局翌日自首したらしいが、その記事で書かれている事件の起きた日は、俺が幽霊を見たと思った時と同じだった。
元増田はタクシーの運転手みたいに読めてしまうんだが