初めて、好きな人ができた。
ファーストコンタクト。垢抜けない奴らばかりのこの大学で、彼女はひときわ輝いて見えた。一生交わることのない生き物だと本能が感知していた。それなのに……
気づくと彼女は側にいた。人生のままならなさを共に嘆き、互いのアイデンティティについて語り合った。僕はいつの間にか彼女のことしか考えられなくなっていた。
初めての恋を自覚した瞬間、僕の精神は入れ替わったかのように組変わった。僕はエロゲーマーとして覚醒していた。オタクとして限界を感じていた当時の僕。自分の好きそうなアニメや漫画はほとんど触れてきたという感触があった。残った領域はエロゲ。何をやってもハマれないのに積みゲーだけが増えていった。それが恋愛感情がわかった瞬間、突然アクセス可能になる。水を得た魚のように貪った。
WHITE ALBUM2は三本目のエロゲだった。
「嫌ってないくらいであたしの心を乱すな! あんな、期待させるような、手を伸ばせば届くって錯覚させるような…」
「想い続けることに意味も価値も望みもなくて、だから、いい加減疲れて馬鹿馬鹿しくなって、そう思えたらあとはもう懐かしい笑い話だって…」
かずさが紡ぐ言葉は、まるで僕の気持ちを代弁してくれてるかのようで、夢中になってテキストを読み進めた。
かずさは、俺のことを全部わかってくれてるんだ……。かずさは……俺だ!俺はかずさだったんだ!
かずさとの繋がりを感じる日々。そして、彼女に彼氏がいることがわかった時には僕のかずさとのリンクは完成された。
僕は雪菜でオナニーをした。雪菜の女性としての魅力とあの子の彼氏の男性としての力の大きさを重ねながら。雪菜の方に行ってしまう春希の心をかずさの身体に持ち帰る。無力感に苛まれて火照る身体。かずさ、君もこんな気持ちだったんだね。雪菜には僕も勝てそうにないよ。
かずさの苦しみをこの身に引き受けて、僕の精神は次第に悪化していく。抗うつ剤も効かなくなった。そう、想い続けることに意味も価値も望みもない。春希は雪菜を愛してるんだ。雪菜なしでは生きていけないんだ。そのことに本当に気づいたとき、あの子と別れて家路を急ぎながら大声で泣いた。
頭が逆さになる感覚。どっちが右でどっちが左なのかもわからない。俺は……誰だ……?かずさはどこにいるんだ……?
かずさ!かずさかずさかずさ!!
気づけばかずさがどこにもいなくなっていることに気づく。そうか……俺はかずさじゃなかったんだ。かずさは最初から他人だったんだ。
僕は泣いた。かずさを失ってしまったことが悲しくて悲しくて……。いつも隣にいたかずさ。僕と同じ気持ちを感じてくれていたかずさ。みんな全部幻想だった。長い夢に過ぎなかった。
翌日、あの子に対する恋情がきれいに無くなっていることに気づいた。かずさを失った喪失感だけが心を占めている。どうして俺がかずさと分かたれなきゃいけないんだ。かずさとずっと一緒にいたかった。
僕のあの子への恋はとっくの昔に終わっていたんだと思う。かずさとのリンクを保ち続けたばかりに僕の感情の中心は気づかないうちにかずさの方に移動を完了していたのだろう。これを書いている今となっては、かずさを失った悲しみが懐かしさに変わりつつある。
かずさと繋がっていたあの幸福―――。
雪が降りしきる。全てが凍った世界でただ一つ、ただ一人だけが僕を暖めてくれていた。あの人肌の温もりを、繋がりを、次はいつ感じることができるんだろう――――――。