弊社はやや古い体質の会社なので、海外の顧客とやり取りするだけの通訳を二人雇っている。中国語担当の中国人の女性と、英語担当の帰国子女の男性。海外の顧客もそこまで多くなく、二人とも週に二日ずつ勤務している。彼らは基本的には通訳以外の仕事はしない。メールの翻訳と、交渉時の通訳が担当だ。
中国人の女性は、今日日こういうことを言うと怒られかねないくらいの「典型的な中国人」で、声が大きく、面子を重要視し、中国本国のお客さんが「恥をかいた」と判断すると平社員だろうと社長だろうと全力で食ってかかってくる。2時間でも3時間でも怒鳴り散らす。そういう性格なので本国のお客さんからの信頼は厚いのだが、しかし私たちは彼らとだけ取引しているわけではない。中国企業との取引は、どちらかというと小口の取引だ。
英語担当の男性は50歳くらいで、当時は珍しい帰国子女だったそうだ。大学もカナダに渡って、その後10年くらいカナダに住んでいて、帰国後にうちの会社にやってきたらしい。いささか鼻につくところがあるが(6年も英語を習うのにみんな英語ができないのは日本の教育の敗北、が彼の口癖だ)、大人しい人だ。ただ、彼は体が弱い。今年は半年ほど療養休暇を取っている。その間の仕事は、私が代わりにやった。彼には伝えたことはないが私も英語は普通に話せるしビジネス文書も作れる。おまけに最近の翻訳機は優秀なので、最悪Google翻訳でもそれっぽいものはできてしまう。私が忙しい時は、そういうものを駆使して同僚が彼の仕事を代行していた。
私は総務なので、来年の彼らの契約更新用の書類を作成している。部長は、「まあ正直、時代的にもわざわざ通訳のためだけに人を雇うのはナンセンスだと思うよ。でも、もうずっといる人だからね」と半笑いで書類に印を押した。
過去には一芸だったものも、時代とともに価値を失う。私だって、別に英語を生かした仕事なんかしていない。それでも、こうしてあと一年、年間200万円くらいのお給料を出してまで、我が社は彼らに通訳を頼む。私は、来年は同じ書類を作るんだろうか。いつかは無くなる仕事の「いつか」がもう近い。その日が来るのが、怖いような、早く来てほしいような、変な気分だ。