物語の冒頭部は、はっきり言って退屈だった。放射線の汚染地域で謎の少女を老人たちが見つけるってのはキャッチ―だったけど、そこから続く第一部がつらかった。
文庫本の帯にもあったけど、愚劣な精神を持つ登場人物たちが入れ代わり立ち代わり共感しづらい行動を取り続けるので、結構ストレスフルな読書体験だった。
けど、強烈な悪の象徴たる川島が登場してからはグッド。一気にめり込めたし読み進めることもできた。
また、彼ら彼女らの人間性について、どうして過ちをおかしてしまうのかについての描写もそれなりにあってしっくりきた。貧困や分断って深刻よねって思う。
しかしながら、得体の知れない巨悪だった川島が、理屈の分かる復習者に成り下がってしまったのは残念だった。
よくゲームなんかでラスボスにかわいそうな過去があると萎えるって感想を見るけど、あの気持ちがちょっとだけ分かった気分。川島にはもっと不気味なまま活躍してほしかった。
そんなこんなで上巻の後半戦、物語的には第二部が始まるあたりになるんだけど、なんかこのあたりからこの小説が何を表現しようとしているのかよくわかんなくなってきた。
東日本大震災が起きて、現実よりももっとひどい、甚大な被害が生じるわけだけど、この辺りはまだ震災というものを表現しているんだなあってふんふん納得しながら読んでいた。
で、下巻。薔薇香に視点が移って、十歳の少女の日々に次から次へと悲劇が舞い込むんだけど、これは何ってのが正直な感想だった。
汚染地域で見つかった少女が、家族を失い、仲間を奪われ、同志だと思った人間に騙されて、巨悪に軟禁される。抵抗しても支配されて、振り回されて、思想の宣伝に利用される。
どうしてバラカがこんな目に合うんだろう。不思議なのが、川島がかかわる女性がことごとく死んでいくのと同様、バラカがかかわる人々もみんな不幸になっていくところなんだよね。
なんでこんな小説になっているんだろう。一番ではないにしろ、庇護を与えられるべき人物が、特に何もしていないのに不幸をまき散らしているように見えるのが意味深長だった。
バラカに関わった人々の失敗のサイクルは何だったのだろう。なぜこの小説で描かれている日本はこんなにも精神的に荒廃してしまったのだろう。
もしかしたら、その辺にこの小説のヒントがあるのかもしれない。描かれている社会や人々の行動こそが失敗のサイクルなのだとしたら、理想的な社会を逆説的に描いているとも言えるのかも。
にしても、このエピローグはなあ。ぶん投げすぎではないのかなあ。なんか納得感がないんだよなあ。うーん。