2019-09-10

[] #78-4「夏になればアイスが売れる」

≪ 前

儲かる理由は他にもある。

近くにはスポーツセンターがあり、夏休みには学生などの団体がそこを利用しているため客入りが良い。

特にコンビニなどの小売店や、他にアイスを売っているライバルがいないのも大きい。

しかも今回は“手伝ってくれる奴”もいるので、個人的にも楽な仕事だ。

「ご、ごごめん。おまたせ」

電話をしていたドッペルが戻ってきた。

いつも何か変装していて、どれが通常の格好なのか分からない子だ。

今は俺の弟を真似している

「随分と慌てていたが、緊急か?」

「う、ううん。マスダに遊びに行かないかって誘われただけ……」

「えーと……弟からか」

弟の格好をしたドッペルから、弟から誘いがあったという話をされる。

無駄にややこしくて、なんだか引っ掛けクイズを出されている気分になった。

別にそっちを優先してくれてよかったんだぞ」

宿題は、は、はは早めに終わらせておきたいタイプから

ドッペルは自由研究テーマを「働く人」にしたらしい。

それのインタビューも兼ねて、俺達の仕事を手伝ってくれているわけだ。

「ええ子やんか。タダで働いてくれるなんて」

カン先輩が、ニヤニヤしながら俺に耳打ちしてくる。

人件費を抑えられるのがよほど嬉しいらしい。

子供を雇って働かすわけにもいきませんからね」

リアクションずれとんなあ、マスダよ」

カン先輩の考える正しいリアクションってやつを知らないんだから、そんなこと言われても困る。

「あの自由研究十中八九の子がその場で思いついたことやで。つまり目的別にあるっちゅうこっちゃ」

そりゃあ見返りくらい、誰だって期待するだろう。

そんなことは、わざわざ言うまでもない。

「まあ、せめて売れ残ったアイスくらいはあげたらいいんじゃないですか」

他人事かいな。どっちかっていうと、マスダがペイするべきやぞ」

なぜそうなる。

カン先輩の仕事を手伝っているんだから、俺が払うのは違うでしょ」

「いやいや、あの子はワイの仕事を手伝うために来たんやなくて、“お前の手伝い”で来とるんやで」

こんな時ですら、そんな欺瞞に満ちたことを言うのか。

さすがに守銭奴が過ぎる。

「こんなアイスの1本や2本をケチ必要もないでしょうに」

「マジか、お前……それボケで言っとるんか?」

呆れ気味にそう言ってくるが、むしろこっちのセリフだ。

「いや、別にアイスはあげてもええよ。でも、それとは別にお前も何かせえっつーてんの」

はいはい、分かりましたよ。後で俺が何か奢ります

絶対、分かってへんやろ……まあ、そっちの問題やし勝手にせい」

カン先輩の中で、あっという間に俺たちだけの問題になってしまった。

本気で言っていなかったとしても末恐ろしい。

「ふ、二人とも、これ見てよ」

俺達の会話が一区切り終えたところで、タイミングを見計らったかのようにドッペルが話しかけてきた。

ちょっと目を離した隙に、なぜか服装が変わっている。

「そのフェミニンな格好は……誰の真似だ? タオナケに似てなくもないが」

「マスダよお、まずは似合ってるかどうか言ったらんかい。それに、この格好はどっちかっていうとガーリーやで」

「そ、そそそっちじゃなくて、こっち見て」

そういって突き出してきた手にはカップが握られていた。

中には茶色がかったアイスが入っている。

「さっき西口にある、く、車で買ったんだ」

それって、つまり……

「うげえっ、ライバル登場かいな」

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん