「知ってるのか、ドッペル」
確かパフ状の甘いスナックで、口直しのアーモンドが入っているのが特徴の商品だ。
「カラメルコーンと牛乳で作れるんだよ。て、ててテレビで観たことある」
ドッペルが言うには、そのスナックと適量の牛乳を混ぜ合わせてペースト状にし、後は冷やして固めれば出来るんだとか。
「へえー、本当にそれだけで作れるのか」
「……あー、あれかっ!」
そういえば以前、ドッペルの家を訪ねたときアイスが出てきたな。
あの時に食べたのが、そうだったのか。
先ほど感じたデジャブは、どうやら気のせいじゃなかったようだ。
「このふりかけられたアーモンドも、その菓子についているものを利用したのか」
それにカラメルコーンには色んなフレーバーがあるから、必然バリエーションも容易く増やせるって寸法だろう。
なるほど考えられている。
問題は、それが分かったところでこちらの不利は変わらないという点だ。
「やっぱりカラクリがあったんか。パっと見分からないところで手を抜いて、それを誤魔化しとるわけや」
仮にこれを誤魔化しだとか言うにしても、それをより工夫している方が評価される。
手間を惜しんだ方が劣るのは自明だ。
テキトーにやっても売れるだろうと、手を抜きすぎたツケがここにきて回ってきたのである。
「くっそー、こんなことなら、もっと色んなジュース買っとくんやった」
というより、カン先輩の考えたアイスキャンデーが、そこまで美味くないのが問題というべきか。
夏の暑い日、他の店が近くにない場所だから買う人がいるってだけで、出来がいいから売れてるわけではない。
まあ、よくある話だ。
「ボロい商売やと思っとったのに~」
カン先輩はもちろん、日雇いの立場である俺も穏やかではいられなかった。
なので閑古鳥が鳴けば、カン先輩も泣くし、俺も泣くことになる。
「何か対策を考えませんとね」
やれることはやった方がいいし、それが見つからないなら探すしかないんだ。
≪ 前 弟がこらちへ向かっているのを、この時の俺は知らない。 知っていたとしても今はそれどころじゃなかった。 「うーん、これは……」 近場に突如現れたライバルのアイス売り...
≪ 前 今の弟にとって、一ヶ月“も”残っている夏休みは一ヶ月“しか”残っていない。 吹きすさむ熱風は、既に秋を運んできていると感じている。 「やっぱり面倒くさい、難しいや...
≪ 前 アイス売りに暗雲たちこめ、ジメジメとした嫌な暑さがまとまわりついてきた。 そんな俺たちの状況なんて弟は露知らず。 というより興味もないだろう。 今のあいつにとって...
≪ 前 儲かる理由は他にもある。 近くにはスポーツセンターがあり、夏休みには学生などの団体がそこを利用しているため客入りが良い。 特にコンビニなどの小売店や、他にアイスを...
≪ 前 ところ変わって公園の駐車場。 そこに停められた一台のキッチンカーの中で、俺は粗末なアイスを売っていた。 風が吹けば桶屋が儲かるのは大した理屈じゃないけれど、夏にな...
≪ 前 何もしないことにだって意味を見出せる、だなんて気取ってはみても退屈なものは退屈だ。 俺が家を出ると部屋は一気に静寂に包まれ、残された弟はソワソワしだした。 「何か...
夏休みを有意義に過ごせる人間は少ない。 エビデンスが欲しければ、弟に訊ねてみるといい。 自由研究で3日かけた超大作を見せてくれる。 それによると、夏休みで満足感を得られる...
≪ 前 しかし、簡単に見つからないから人は苦悩し、迷走するのもまた真理だ。 「客引きしてみます?」 「いや、今日びそういうの印象悪いねん。やりすぎたら何かの条例に引っかか...
≪ 前 俺たちにとっては偶然舞い降りた奇跡といえた。 だが得てして、奇跡だとされる物事は見方を少し変えたり、解体の過程でくだらない因果の成り立ちが露わになる。 話は十数分...
≪ 前 バイト戦士 マスダ 睡眠計250時間 日常から通学という要素を省いただけのような夏休みを過ごす。 しかし十分な休暇になったとされている。 その是非は研究者の間でも未だ議論...