2019-09-14

[] #78-8「夏になればアイスが売れる」

≪ 前

「知ってるのか、ドッペル」

ドッペルは確認するように、一口、二口とまた食べていく。

「うん……や、やっぱり“カラメルコーンアイス”だ」

なんやそれ。カラメルコーンは知っとるけど」

カラメルコーンは俺も知っている。

確かパフ状の甘いスナックで、口直しのアーモンドが入っているのが特徴の商品だ。

だが、あの菓子アイス版なんてあっただろうか。

カラメルコーン牛乳で作れるんだよ。て、ててテレビで観たことある

ドッペルが言うには、そのスナックと適量の牛乳を混ぜ合わせてペースト状にし、後は冷やして固めれば出来るんだとか。

「へえー、本当にそれだけで作れるのか」

「じ、実際に作ったことある……兄ちゃん、覚えてない?」

「……あー、あれかっ!」

そういえば以前、ドッペルの家を訪ねたときアイスが出てきたな。

あの時に食べたのが、そうだったのか。

先ほど感じたデジャブは、どうやら気のせいじゃなかったようだ。

「このふりかけられたアーモンドも、その菓子についているものを利用したのか」

それにカラメルコーンには色んなフレーバーがあるから必然バリエーションも容易く増やせるって寸法だろう。

なるほど考えられている。

これでこのアイス疑念は氷解した。

問題は、それが分かったところでこちらの不利は変わらないという点だ。

「やっぱりカラクリがあったんか。パっと見分からないところで手を抜いて、それを誤魔化しとるわけや」

カン先輩がそんなこと言う筋合いはないと思います

仮にこれを誤魔化しだとか言うにしても、それをより工夫している方が評価される。

手間を惜しんだ方が劣るのは自明だ。

キトーにやっても売れるだろうと、手を抜きすぎたツケがここにきて回ってきたのである

大抵の人間はこのカラメルコーンアイスのほうを買うだろう。

「くっそー、こんなことなら、もっと色んなジュース買っとくんやった」

「それで解決する問題じゃないですよ」

というより、カン先輩の考えたアイスキャンデーが、そこまで美味くないのが問題というべきか。

夏の暑い日、他の店が近くにない場所から買う人がいるってだけで、出来がいいから売れてるわけではない。

絶対評価だと悪くないものが、相対評価だと悪いと思われる。

まあ、よくある話だ。

「ボロい商売やと思っとったのに~」

カン先輩はもちろん、日雇い立場である俺も穏やかではいられなかった。

なにせ、このバイト給与は完全歩合制。

なので閑古鳥が鳴けば、カン先輩も泣くし、俺も泣くことになる。

「何か対策を考えませんとね」

だが、このまま泣き寝入りするわけにもいかない。

やれることはやった方がいいし、それが見つからないなら探すしかないんだ。

次 ≫
記事への反応 -

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん