2019-09-07

[] #78-1「夏になればアイスが売れる」

夏休み有意義に過ごせる人間は少ない。

エビデンスが欲しければ、弟に訊ねてみるといい。

自由研究で3日かけた超大作を見せてくれる。

それによると、夏休みで満足感を得られる人間は1割にも満たないらしい。

消費税より低い割合に驚くべきか、つくづく消費税が高いことに驚くべきか。

だけど確かなのは、いずれにしろ夏休みの終わりは平等に訪れるってこと。

寝ている間にも心臓は動くし、時計の針だって止まってくれない。

だったら全力で楽しむにこしたことはないだろう。

弟の自由研究を信じられるかはともかく、その点ではコンセンサスが取れている。

にも関わらず、ほとんどの人間がそれをできないのはなぜだろう。

答えが見つからないまま、今年の夏休みがまたやってくる。

そして山のような積まれ宿題と共に、それは険しく立ちふさがるんだ。


……なんて、前置きで大層なことを語ってはみたものの、俺たち兄弟夏休みは極めて緩やかに始まった。

おはよう兄貴

「なんだ、いま起きたのか。どうやら弟の宿題は、『惰眠』の辞書解説自分名前を載せることらしい」

「そういう兄貴こそ寝癖ついてんじゃん」

いつもなら起きている時間に寝て、いつもなら外にいる時間に家にいた。

一見すると何もしていないようだけど、無為なことだって休暇の内さ。

それに、いつまでもそうしているわけじゃない。

俺は寝癖を直しながら、必要ものをバッグに詰める作業をする。

「えー、兄貴夏休みなのにバイト?」

夏休みからバイトなんだよ」

「なんだそりゃ」

普段から何もしていない人間の“何もしていない”は、文字通り何もしていないのとイコールだってことだ」

ますますからないんだけど」

「ふっ、まだまだガキだな」

何かをしてこそ、何もしないことにも意味を見出せる。

そう言いたかったんだが、正直なところ自分でも訳の分からないことを言っていたと思う。

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