何もしないことにだって意味を見出せる、だなんて気取ってはみても退屈なものは退屈だ。
俺が家を出ると部屋は一気に静寂に包まれ、残された弟はソワソワしだした。
「何か、何かしたいなあ」
宿題はやるべきことではあっても、やりたいことではないからだ。
弟は今日やると決めたことは全力でやるが、やらないと決めたら全力でやらないのである。
「キトゥン~……いないのか」
飼っている猫と遊ぼうとするが、呼んでも気配がない。
どうやら、どこかに遊びに行っているようだ。
「あーあ、キトゥンですら何かしてるのになあ」
両親も外出しており、家にいるのは自分だけ。
俺だったら好都合な空間だが、弟は孤独そのものに娯楽性を見出せない。
「……仲間に連絡してみるか」
では友達と遊ぼうと、いつも連れ立っているメンバーを誘ってみるが尽く全滅。
「俺にじゃなくて、ホテルの人に言ってくれ」
「と、とにかく今日は一人でいたいんだ」
「えー、でも外いるだろ? 音が漏れてる」
「と、とと、とにかく無理だから! とにかく!」
とにかくドッペルは掴み所のないことを言って、とにかく断ってきた。
「メイキョ……なんて?」
「あれ、『ゼブラセラピー』をご存じない? 自宅で簡単にできる……」
ミミセンは何か、よく分からないことをやってる。
「となると、後はシロクロしかいないけど……」
各地を練り歩き、朝昼晩ずっとやっているガチ勢だと噂になっている。
既にお菓子の詰め合わせは手中にあり、次はお菓子の詰め合わせVer.2のために日夜体操しているらしい。
「……やばいな、俺だけ何もしてないじゃんか」
弟は焦っていた。
無理に捻り出して何かをする必要もないだろうに、みんな何かしらやっているという事実に囃し立てられた。
今まで大抵のことは家族や仲間たちと共にやってきたから、一人前提で何かをやる発想力がなかったんだ。
「そうだ、タケモトさんだ……夏休みの先輩に知恵を授かろう」
夏休みを有意義に過ごせる人間は少ない。 エビデンスが欲しければ、弟に訊ねてみるといい。 自由研究で3日かけた超大作を見せてくれる。 それによると、夏休みで満足感を得られる...
≪ 前 ところ変わって公園の駐車場。 そこに停められた一台のキッチンカーの中で、俺は粗末なアイスを売っていた。 風が吹けば桶屋が儲かるのは大した理屈じゃないけれど、夏にな...
≪ 前 儲かる理由は他にもある。 近くにはスポーツセンターがあり、夏休みには学生などの団体がそこを利用しているため客入りが良い。 特にコンビニなどの小売店や、他にアイスを...
≪ 前 アイス売りに暗雲たちこめ、ジメジメとした嫌な暑さがまとまわりついてきた。 そんな俺たちの状況なんて弟は露知らず。 というより興味もないだろう。 今のあいつにとって...
≪ 前 今の弟にとって、一ヶ月“も”残っている夏休みは一ヶ月“しか”残っていないんだ。 吹きすさむ熱風は、既に秋を運んできているように感じている。 「やっぱり面倒くさい、...
≪ 前 弟がこらちへ向かっているのを、この時の俺は知らない。 知っていたとしても今はそれどころじゃなかった。 「うーん、これは……」 近場に突如現れたライバルのアイス売り...
≪ 前 「知ってるのか、ドッペル」 ドッペルは確認するように、一口、二口とまた食べていく。 「うん……や、やっぱり“カラメルコーンアイス”だ」 「なんやそれ。カラメルコー...
≪ 前 しかし、簡単に見つからないから人は苦悩し、迷走するのもまた真理だ。 「客引きしてみます?」 「いや、今日びそういうの印象悪いねん。やりすぎたら何かの条例に引っかか...
≪ 前 俺たちにとっては偶然舞い降りた奇跡といえた。 だが得てして、奇跡だとされる物事は見方を少し変えたり、解体の過程でくだらない因果の成り立ちが露わになる。 話は十数分...
≪ 前 バイト戦士 マスダ 睡眠計250時間 日常から通学という要素を省いただけのような夏休みを過ごす。 しかし十分な休暇になったとされている。 その是非は研究者の間でも未だ議論...