俺の元職場はイジメが慢性化していた。ターゲットの選別は課長。全員が指導の一環と思っているため、イジメの認識すらしていない最悪なパターンだ。過去には倉庫で自殺未遂をした者がいる。新卒者がつぶれる確率は90%。誰かが辞めるたびに「全然いい人こないよねー」と嘆いていた。
ある時、中途採用の男性が入社した。山田君としよう。人当たりはよいが不細工で、若干抜けている。誰もが無意識のうちに「次はこいつだな」と思ったことだろう。入社して2週間ほどで課長の攻撃は始まった。
「謝るのは猿でもできるよなあ?」と謝罪を促した矢先に「すみませんじゃ済まねえんだよ。対策を言え」とか、最終局面に至る頃には「親の躾はどうなってんだ」とヒートアップ。
そして唐突にやってきた実質的な山田君の勤務最終日。課長の説教姿が日常と化していたため気にもとめず、ぼくは淡々と仕事をこなしていた。そんな午後のことである。
急に鈍い音とともに女性の悲鳴。「やめろって!」と仲裁が入る。なんだなんだと近くに寄ると、もみくちゃになった山田君と課長の姿が。
後々、現場近くにいたメガネ女に聞いた話はこうだ。山田君が「はい、わかりました。失礼します」と頭を下げたところ、課長が軽く頭を叩いた。山田君、それでブチギレちゃって思いっきりぶん殴ったらしい。
で、男が数人がかりで止めると、山田君は急におとなしくなった。「わかりましたわかりました。すみません、もう暴れません」両手をあげて降伏ポーズ。男たちの拘束を解いたところで、ぶっ倒れた課長の目ん玉めがけて、ボールペンとともにダイビング。それを課長は何とか回避。
課長も興奮して「人生の先輩に何事か。上層部に報告する」と怒鳴ると、山田君が笑みを浮かべてポツリと呟いた。「いつか絶対殺すからな」
その後、山田君は懲戒免職。課長はパワハラ全開の指導法が一応問題になっていたこともあって、地方へ左遷となった。
上が変わると職場の雰囲気も変わる…とは言うけれど、この元職場は何なんだろう、課長が居なくなったところで何も変わらなかった。はじめにも書いたとおり、イジメをイジメと認識できない職場。もう麻痺しちゃってるんだと思う。ぼくはこの事件の数ヶ月後に他社へ移ったんだけど、離れてからはじめて異常性に気づいた。
この話を増田に書こうと思ったきっかけは、つい先日、元同僚に「最近どう?」と電話をしたら、「いやー新人がさ…」と愚痴が始まったからだ。彼らはいつ気づくことができるんだろう。
暑いお茶をかけるだけなら事故で済んでいたのに