ムカイさんの開発者は、戦闘力を上げるためにAIも発達させていた。
そこで、ムカイさんに「倒す」という優先プログラムをつけ、それをAIと紐付けるために「戦う理由」を付与した。
しかし開発者は、その「戦う理由」が消滅した後のことまで考えていなかった。
いや、考える必要がなかったのだろう。
秘密結社の野望が成就されるにしろ、潰えるにしろ、最終的にムカイさんが“辿る道”は同じだったはずだから。
しかし、秘密結社が壊滅したとき、ムカイさんは未だピンピンとしていた。
「自分は何のために戦っているのか」と思ったらしい。
優先プログラムは「倒す」という命令を出すのだが、AIに紐付けられた「戦う理由」が消滅したため実行できない。
最もシンプルな方法は、新しい「戦う理由」を作ってAIと紐付けることだ。
だが、勝手に動かれては困るから、その手段は自発的にできないよう作られていた。
それは人間でいうならば、“ジレンマ”というものに近いものかもしれない。
解決策が見つからないまま、問題解消のためにどんどん容量を割いていく。
結果、何とか出てきた案が「新たな解決策を導き出すため、今よりも自分のAIを発達させる」というものだった。
ムカイさんは、そのために人間の真似事をすることにした。
アテのない旅を繰り返し、自分の存在意義とは、自分は何をすべきなのか答えを探す。
しかし、答えは出てこない。
その時、偶然出会ったのが俺たちの叔母だ。
冒険家の叔母から、姉の(つまり俺たちの母の)話を聞くうち、ムカイさんの中で答えへのナビゲーションが表示されたらしい。
そう考え、接触を試みたわけだ。
「ねえ、ムカイさんの言ってることって、現実問題として科学的にありえるの?」
「そんなこと分かるわけないだろ」
話の途中、弟は俺にそう尋ねてきたが、そう返すことしかできない。
俺は、自分が普段慣れ親しんでいる日常とかけ離れた世界観の話に、事情を上手く飲み込めないでいた。
それでも話をまとめるなら、俺たちがパズルに苦戦した理由は、こうだ。
ムカイさんは度重なる改造によって、今と昔で姿形が違っていた。
母のムカイさんに対する記憶が曖昧だったのは、それが理由だろう。
そして何より、母の語っていた秘密結社の話を、俺たちが信じていなかったことが問題だった。
その話を信じてさえいれば、ムカイさんとの関連性を推理することができたかもしれない。
俺たちは母を信頼していたが、その信頼性はどうも歪んでいたってことなのだろう。
とどのつまり、俺たちは自分たちにとって信じやすい情報だけを信じ、その結果パズルゲームに失敗したんだ。
「調べたいことを検索したらピンとくる内容のものが出てこなかったが、実はトップページの記事をよく読めば書いてあった、みたいな話だな」
「兄貴、その例え分かりにくい」
母は若い頃、秘密結社『シックスティーン×シックスティーン』と、それに対抗する組織『ラボハテ』との戦いに巻き込まれて瀕死の重症を負う。 『ラボハテ』は最新の技術を用いて、...
結論から言えば、俺たちはこのパズルを自力で解けていない。 ただ、言い訳をさせてくれ。 最も簡単な問題とは、“解が分かっている”ことだ。 解を持つ人間から見れば、さぞ滑稽...
弟の方は、ムカイさんに踏み込んだ話をした。 「ムカイさんってさあ、何で母さんのことよく聞いてくるんだ?」 俺が慎重に立ち回ろうとしているのがバカらしくなるくらい、ド直球...
ある日、弟は聞いてもいないのに自らの違和感について話し始めた。 「ムカイさんってさあ、話にやたらと俺たちの母さんについて捻じ込んでくるよな」 気にしたことがなかったが、...
家族のことについて、俺たちはどれだけ知っているだろう。 いや、“どれだけ知っているべきか”といった方が適切だろうか。 少なくとも俺は、家族だからといって全てを知りたいと...
≪ 前 何はともあれ、これで俺たち兄弟が熱中したパズルゲームは終わりだ。 ということで、今回の話もこれで終わり ……というわけにもいかないか。 俺と弟はそれで良くても、ム...