弟の方は、ムカイさんに踏み込んだ話をした。
「ムカイさんってさあ、何で母さんのことよく聞いてくるんだ?」
俺が慎重に立ち回ろうとしているのがバカらしくなるくらい、ド直球の質問だ。
“急がば回れ”とはよく言うが、それは回り道がどこにあるか分かっている人間の言葉であり、弟にそんなものはない。
「知り合いだ……昔のな」
しかし、多少リスクはあっても、駆け引きを排除したことによるリターンも否定できない。
今回はそれが功を奏し、意外にもムカイさんはすんなりと答えた。
「もっとも、あっちが覚えているとは思わんがな」
ムカイさんは続けてそう言った。
何だか妙だ。
さっきも説明したが、母の記憶は綺麗に整頓されており、しまってさえあればすぐに引き出せる。
もしムカイさんの言うとおり知り合いだというのなら、数秒程度の面識しかなくても母は覚えているはずだ。
「知り合いって、いつ、どこで出会ったの? 詳しく!」
「なぜ、お前らに、そこまで言わねばならんのだ」
「それが、何か関係あるのか?」
弟は更に追及しようとするが、ムカイさんは突き放すように断った。
「なんだったら、母さんと直接会って、話してみたらいいじゃん」
「それは、お前が決めることじゃない」
ムカイさんの言葉には血が通っていないように思えるが、主張自体は一理ある。
なぜなら、ムカイさんと母の間に何らかの過去があったとして、その物語に俺たちは登場していない。
知的好奇心を満たす以上の意義を提示できず、ムカイさんにその気がない時点で、話は終わりなんだ。
仕方なく、俺たちは現時点で集まったピースだけでも、はめておくことにした。
「母さんは、ムカイさんのことを覚えているような覚えていないような……つまり記憶が曖昧らしい」
「ムカイさんは母さんと『昔の知り合い』だと言ってたけど、『覚えていないだろう』とも言ってた」
パズルの完成絵は分からないが、少なくともピース自体は合っているわけだ。
「母さんが覚えていないってのが謎なんだよな」
「メモリが故障してんのかな。だとしても、腑に落ちないけど……」
結局のところ、俺たちが分からないのは、そこだった。
覚えているか、覚えていないか、そもそも記憶にないかでハッキリしている。
もし、何らかの理由で脳から記憶が完全に飛んでいたら、ムカイさんについては「知らない」と答えるはずなんだ。
曖昧な答え方はしない。
俺たちはそこが引っかかって、十数分間ほど同じ議論を繰り返した。
平行線を辿り、どうしても先に進めなかった。
かといって、これ以上はピースも揃いそうにない。
完全な打ち止めだ。
しかし、俺たちは気づいていなかった。
実はこの時点で、完成絵の“あたり”をつけることは可能な段階になっていたことに。
ピースはあるのに、パズルのやり方が下手くそだったのが原因だったんだ。
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