「嫌よ! なんで私がそんなことしないといけないのよ」
「はあ!?」
自分の今置かれている状況が分かっていないのか?
「タオナケちゃんなりの正義なのかも。彼女にとっては、今ここで力を使って自衛することは自分の信念を曲げる行為なんだよ」
正義って……自分の身を守るのに正義だとか悪だとかって関係ないだろ。
「嫌! 私は悪くない!」
駄目だ、取り付く島がない。
俺たちが諦めかけて強行突破を仕掛けようとしたその時、魔法少女がタオナケに言葉を投げかける。
マジックワードがないとか言っていたけど、実はあったんだ。
「タオナケちゃん! あなたが悪くなくても、被害に遭うリスクそのものはなくならないの! だから、あなたのやることも変わらないはずよ!」
「え……」
タオナケが素っ頓狂な反応をする。
あまりにも目に鱗な答えだったらしい。
「……まあ考えてみれば、それもそっか」
得心したタオナケは、すぐさま男の持っている武器めがけて念を送った。
普段なら5回に1回成功すればいい方なのだが、今回はすんなり上手くいった様だ。
たちまち男の持っていた武器は粉々になって崩れ落ちた。
「ワ、ワシの棒が!?」
その不可思議な様子を目の当たりにした男は取り乱し、タオナケへの拘束が緩む。
「ロック!」
すると男は体が硬直して、そのまま動かなくなってしまった。
確か無防備の相手に対して使えば、対象の時間そのものを止めるとかいう、やたらと物騒な魔法だ。
「普段のはビジネス用。緊急なんだから悠長に詠唱するわけにはいかないでしょ」
その後、男は魔法少女によって自警団に引き渡され、そして自警団によって警察へ引き渡された。
「これ死後硬直してるかってくらい動かないんですが、大丈夫なんですかい」
俺たちはその様子を尻目に、タオナケとギクシャクした会話を繰り広げていた。
「みんな心配かけてゴメンね。気持ちばかりが先走って、肝心なことを忘れていたみたい」
「タオナケ。何か誤解していたかもしれないが、君のことを責めるつもりであんなことを言ったわけじゃないんだ」
「あの時は分からなかったけど、今なら分かる。心配して言ってくれたのよね」
「俺たちの表現力ではあれが精一杯だったんだよ。被害者が悪くても悪くなくても、被害に遭う可能性はなくならない。だからタオナケが善いとか悪いとかと、自衛するかどうかは別の話なんだ」
「そうね。自衛は誰でもない、自分自身のためにするの。もちろん可能性が完全になくなるわけじゃないけど、その可能性を減らすよう努めることは大事よね」
なんか、さっきまでやたらと頑固だったくせに、随分と物分りがいいんだな。
魔法少女の言うとおり、まずは俺たちがタオナケに寄り添ってやればスムーズに話は進んだのかもな。
「いいえ」
「え?」
俺たちは思わず溜め息を吐いた。
俺たちは魔法少女にこれまでの経緯を語った。 「なるほどね。被害に遭った人の思考が極端になることは珍しくない。恐怖で外出するのすら困難になる人もいるし、その点タオナケちゃ...
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