「なあタオナケ……まさか、明日も貧困街を通ったりしないよな?」
「やめときなよ。危ないよ」
「あんた達が決めることじゃないわ」
タオナケの怒りは放課後になっても納まらず、俺たちと意図的に距離を空けて接する。
「なあ、なんかタオナケのやつ、ちょっとこじらせてないか? 風邪か?」
「違うよ、シロクロ」
まあ、完全な予防が困難という意味では似たようなものかもしれない。
「タオナケのやつ自意識が強く働いて、かえって自衛の必要性を見失ってる」
俺たちが間違っているのならタオナケに謝ってそれで終わりでいいんだけど、別にそういうわけでもない。
それでは何も解決しない。
そもそも俺たちが優先すべきは、タオナケとの関係修復じゃないからだ。
「まあ……しばらくしたら戻るさ」
「しばらくじゃ遅いよ。このままじゃタオナケが意地になって、またあの場所を通るかもしれない」
次にまた何かあったとき、今回みたいに俺たちがフォローできるとは限らない。
けれどもタオナケのあの様子を見ていると、俺たちではとてもじゃないが説得できる気がしなかった。
兄貴が言うには、まずタオナケを説得することは難しいだろうということだ。
人間の意志なんてそう簡単には変わらないし、頭ごなしに押さえつけても反発が強まるだけ。
だから貧困街に行っても大丈夫なよう、警護をつけるべきだと考えた。
だが俺たちでは力不足だし、タオナケ自身それを望まないだろう。
なので個の力が強い第三者にそれとなく警護してもらうのが、ひとまずの応急処置だと兄貴は分析した。
そこまで分析してもらえれば、俺たちが思いつく選択肢はだいぶ絞られる。
俺たちは魔法少女に頼み込んだ。
とある一件で正体を知って以来、俺たちはたまに魔法少女に絡むようになった。
「うーん……そーいう個人的な問題は魔法少女の管轄内だっけ?」
「そもそもの話をしますと、我が社の魔法少女は試験の一環として都市に配属された操作型アンドロイドです。有志を募って参加していただいております」
「駄目ってこと?」
「魔法少女になってやることは、主に自分の住む町の自警活動や、イベントなどの参加。後は定期的に報告書の提出や、魔法少女たちの集会に参加していただくことです。後は、良識の範囲内で魔法少女になることは自由となっております」
「そうなります」
「それじゃあ、タオナケをさりげなく警護してあげてよ。ついででもいいからさ」
「うーん、駄目ってわけじゃないけど、そういうのって際限がないしなあ」
「そんなこといって、ほら、あるだろ……マジックワードが」
「そんなものないよ」
「パワーワードでもいいよ」
「パワーワードもないし、そんなのでどうにもならないでしょ。そもそも、どうしてタオナケちゃんはそんなことをするの?」
ところ変わって兄貴のほう…… へとへとになりながらもバスにギリギリで駆け込み、いつもの席に勢いよく座りこんだ。 「やあ、マスダ」 「はあ……あ、センセイ……はあ、どうも...
学校にたどり着いた頃には俺たちは息も絶え絶え。 特にひと一人抱えて走っていた兄貴の顔色は相当ひどかった。 「ここまで来れば十分だろ」 「ありがとう。兄貴も学校あるのにゴ...
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この世は俺たちが思っている程度には安全だ。 でも、思っている程度には危険でもある。 家では電気やガスを使わない日はない。 外を出れば、人を簡単に殺せるモノが次々と俺たち...
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