「ちょっと遅くないか? 早く来てくれないとこっちも困るんだが」
「まあ、いつもの寄り道だろうね」
「寄り道?」
それを知らない兄貴が尋ねてくる。
「ほら、あそこだよ。いわゆる“貧困街”」
最近のタオナケは、通学中に寄り道をすることがマイトレンドだった。
俺たちはそのエリアのことを、『貧困街』って勝手に呼んでいる。
その荒廃した様相がタオナケの美的感覚に触れたようで、彼女は暇さえあればそこを通ることが多かった。
俺たちにとってはいつものことだったのだが、兄貴はそれに怪訝な表情をした。
「そこ大丈夫か? 治安が悪いってよく聞くし、この団体の管轄外だぞ」
それを聞いて俺たちは途端に不安に駆られる。
「まあ、今まで大丈夫だったんだから、今回も大丈夫だって可能性も高い。治安が悪いって言ったって、早々事件に巻き込まれるってわけでもないし、ましてやタオナケには超能力があるだろ……」
兄貴はその雰囲気から面倒事を感じ取り、慌ててフォローし始める。
だが、もはや俺たちの結論は決まっていた。
「他にもっと頼りになるのがいると思うんだがなあ」
「少なくとも今すぐ付いてきてくれて、その上で頼りに出来るのは兄貴だけだよ」
「……割に合わないボランティアだ」
ここは貧困街 俺たちはそう呼ぶ
貧しくて困ってる エリアなのさ
具体的に何で 貧しいのか
具体的に何で 困ってるのか
知りもしないし 知る必要もない
ここは貧困街 俺たちはそう呼ぶ
廃墟がところせましと並ぶ街
見分けがつかないし つかなくてもいい
貧困街のエリアにたどり着くと、意外にもタオナケはすぐに見つかった。
騒ぎを辿っていくと、そこにいたのだ。
どうやら自治体の抗争に巻き込まれて脱出し損ねたらしく、その中心でオロオロしていた。
「ほら、やっぱり俺たちが来たのも、兄貴を連れてきたのも正解だったでしょ」
「ああ、そうだな……言っておくが、俺の気が沈んでいるのは予想が外れたからじゃなく、今からタオナケを助けるためにあそこに突っ込まないといけないからだ」
「じゃあ、シロクロ。マスダの兄ちゃんを手伝ってあげて」
「アイアイ! どけいっ、みんな、どけい!」
ミミセンの指示で、シロクロは全速力で抗争の渦中に突っ込んでいくと、そのままどこかに行ってしまった。
だが、そのおかげで獣道ができて、兄貴はそれを更に広げるようにしながら進んでいく。
そうしてタオナケのもとへたどり着くと、有無を言わさず抱きかかえて、そそくさとその場を後にした。
「よし、俺たちも逃げよう」
この世は俺たちが思っている程度には安全だ。 でも、思っている程度には危険でもある。 家では電気やガスを使わない日はない。 外を出れば、人を簡単に殺せるモノが次々と俺たち...
≪ 前 学校にたどり着いた頃には俺たちは息も絶え絶え。 特にタオナケを抱えて走っていた兄貴の疲労は相当なものだった。 「ここまで来れば十分だろ」 「ありがとう。兄貴も学校...
≪ 前 ところ変わって兄貴のほう…… へとへとになりながらもバスにギリギリで駆け込み、いつもの席に勢いよく座りこんだ。 「やあ、マスダ」 「はあ……あ、センセイ……はあ、...
≪ 前 「なあタオナケ……まさか、明日も貧困街を通ったりしないよな?」 「あんた達に言う義理はないわ」 「やめときなよ。危ないよ」 「あんた達が決めることじゃないわ」 タオ...
≪ 前 俺たちは魔法少女にこれまでの経緯を語った。 「なるほどね。被害に遭った人の思考が極端になることは珍しくない。恐怖で外出するのすら困難になる人もいるし、その点タオナ...
≪ 前 「タオナケ、超能力を使え!」 「嫌よ! なんで私がそんなことしないといけないのよ」 「はあ!?」 自分の今置かれている状況が分かっていないのか? 「タオナケちゃんな...