学校にたどり着いた頃には俺たちは息も絶え絶え。
特にタオナケを抱えて走っていた兄貴の疲労は相当なものだった。
「ここまで来れば十分だろ」
兄貴はタオナケを降ろすと、呼吸を調えて酸素を供給して脳を稼動させる。
「学校……そうだよ、学校あるんだよ。なんで朝からこんな……金を貰おうがボランティアは二度とやらん……」
うわ言を呟きながら、兄貴はよろよろとした足取りで去っていた。
トラブルに巻き込まれたのが、よほどショックだったのだろうか。
「やれやれ。これにこりたら、あんな場所を一人で歩こうとはしないことだな」
「私、疑問なんだけど、何その理屈」
タオナケが今日俺たちに初めて投げかけた言葉は朝の挨拶でも、助けてもらったお礼でもなく、怒りの言葉だった。
元から気難しいところがあったが、ここまで過剰に反応するのは初めてだったので俺たちは戸惑った。
「そんなこと言ってないだろ」
「言ってないけど、言ってるようなものでしょ」
「違うってば、タオナケ。巻き込まれたのは気の毒だけど、それはそれとして自衛に努めようって言っているんだよ」
「私は悪くないけど、そんな奴らを気にして自衛しないといけないの? 理不尽だわ!」
いや、全く分からないというわけじゃない。
けど主張を理解するための、タオナケの“心の根っこ”が分からなかった。
「不平不満を言っても事態は好転しないよ。個人差はあるけど皆やってることだ。ほら、僕も防犯ブザー持ってる。聴覚が敏感だから防犯ブザー使ったら自滅するけど、そのために唐辛子スプレーも持ってるよ」
「つまんねえ揚げ足とるなよ、ミミセン」
「もういい、絶交よ!」
「ちょっと遅くないか? 早く来てくれないとこっちも困るんだが」 遅れている理由は何となく分かっていた。 「まあ、いつもの寄り道だろうね」 「寄り道?」 それを知らない兄貴...
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