俺たちは魔法少女にこれまでの経緯を語った。
「なるほどね。被害に遭った人の思考が極端になることは珍しくない。恐怖で外出するのすら困難になる人もいるし、その点タオナケちゃんはまだ深刻じゃないかもね」
「俺たちからすれば、そっちのほうがよかったよ。今のタオナケは破滅願望者と見分けがつかない」
「心配なのね。なら、タオナケちゃんをもう少し思いやって言葉をかけてあげなさい」
「俺たちはそのつもりで言ったんだけど……」
「まさか、『被害に遭いたくなければ、もっと気をつけろ』みたいなことは言ってない?」
「え、何で分かった。心を読む魔法も使えるのか?」
「魔法はそんなに万能じゃないよ。今のは単なる推測。それにしても……君たちのその表現はマズかったかもね……」
タオナケが怒った発端からして多分そういうことなのだろうけど、俺たちにはその理由が分からないでいた。
「でも俺たちの言うこと自体が間違っているとは思わない。自衛ってのは必要なものだ」
「『被害に遭った人間の善し悪し』と、『被害に遭わないようどうするべきか』という話は同列で語られやすいけれど、厳密には別問題なの」
「それは分かってるよ。だから被害に遭わないよう、その可能性を減らすアドバイスをしたんだ。別にタオナケを責めるために言ったわけじゃない」
「その前提を、言われた本人が踏まえていなければ正しく伝わらない。多分タオナケちゃんは、あなたたちのアドバイスが自分を責めている言葉だと解釈したの。ましてや被害に遭って間もないし、冷静に判断することも難しいでしょう」
タオナケは気丈に振舞っていたが、本当はとてもショックだったんだ。
それを分かってやれなかったことに、仲間として不甲斐ない気持ちになった。
「まずはタオナケちゃんに寄り添ってあげなさい。そうすれば、あなたたちの気持ちもちゃんと伝わるから」
「そうだな。よし、タオナケに連絡だ」
仕方なく家にかける。
「あ、どうも、タオナケ?」
「私、親だけど」
出てきたのは親の方だった。
「あの、タオナケは?」
「外出したわよ。マスダさんのお宅に行くって」
入れ違いだったか。
……いや、まさか。
「タオナケ!」
貧困街のエリアにたどり着くと、意外にもタオナケはすぐに見つかった。
騒ぎを辿っていくと、そこにいたのだ。
またも自治体の抗争に巻き込まれたらしいが、今度は事情が少し違う。
タオナケが堂々と振舞っていたものだから、当事者だと勘違いされたのだ。
「それ以上、近づくなガキ共。ワシの正しさは半径10メートルのもと確約される」
そのせいで俺たちは距離を詰められずにいた。
それを使えばチャンスを作れるのだが……そんなこと言われなくともやっているはず。
なぜやらないんだ。
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