この世は俺たちが思っている程度には安全だ。
でも、思っている程度には危険でもある。
家では電気やガスを使わない日はない。
外を出れば、人を簡単に殺せるモノが次々と俺たちの周りを通り過ぎる。
でも基本的に、俺たちはその背後にある死の影に怯えたりはしない。
人はいつか死ぬと分かってはいても、少なくとも今じゃないとは思っている。
大なり小なり人々は危険を理解することで、それなりの安全を手に入れているわけだ。
じゃあ、もしその認識をどこかで誤ったら……?
今回は、そんな感じの話だ。
その事件は通学中に起きた。
「でも、ここ信号ないよ」
「じゃあ、しばらく待ちな。お偉いさんに言いつけて設置してもらうから」
通学路には、ドギツイ色で覆われた服を着た大人たちが所々に配備されている。
彼らは子供たちが安全に通学できるよう、引率しているとのことだ。
どこかの市民団体らしいが、この町にはそういうのが多すぎるので具体的なことは知らない。
いてもいなくても俺のやることは変わらないから、大して関心もない。
だが、その中に意外な人物がいたので、思わず話しかけずには入れなかった。
「あれ、兄貴もやってんの?」
寝起きで気分が悪いのか、兄貴は鬱陶しそうにこちらを睨んでくる。
「ああ、ボランティアでな」
これまた意外だ。
「落ち目の有名人や、暇を持て余した金持ちが売名目的でよくやってるせいで変なイメージがついているが、ボランティアはタダ働きとは限らないぞ」
ああ納得、やっぱり“そういうこと”か。
「まあ、薄給だがな。俺だって、いつもやってた掃除のバイトが今日はないから何となくやってるだけ」
兄貴のこういうバイタリティには感心するけど、あんまり羨ましいとは思わないのはなぜだろうか。
「ほら、さっさと学校いけよ。お前を連れていったら、俺も自分の通ってる学校行かないといけないんだから」
「待ってよ。ここで友達と待ち合わせしてるんだ」
数分ほど待っていると、まずミミセンがやってきた。
シロクロは学生じゃないから呼んでいないのだが、ミミセンの姿を見てついて来たようだ。
「後はタオナケとドッペルか……」
「ドッペルならもう来てるぞ」
そう言って兄貴が自分の足元を指差すと、そこにはドッペルがいた。
ドッペルは変装が得意な上に気配を消すのが上手いから、あっちから話しかけてくれないと気づきにくい。
「ということは、後はタオナケだけか」
≪ 前 「ちょっと遅くないか? 早く来てくれないとこっちも困るんだが」 遅れている理由は何となく分かっていた。 「まあ、いつもの寄り道だろうね」 「寄り道?」 それを知らな...
≪ 前 学校にたどり着いた頃には俺たちは息も絶え絶え。 特にタオナケを抱えて走っていた兄貴の疲労は相当なものだった。 「ここまで来れば十分だろ」 「ありがとう。兄貴も学校...
≪ 前 ところ変わって兄貴のほう…… へとへとになりながらもバスにギリギリで駆け込み、いつもの席に勢いよく座りこんだ。 「やあ、マスダ」 「はあ……あ、センセイ……はあ、...
≪ 前 「なあタオナケ……まさか、明日も貧困街を通ったりしないよな?」 「あんた達に言う義理はないわ」 「やめときなよ。危ないよ」 「あんた達が決めることじゃないわ」 タオ...
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