俺たちのそんな鬱屈とした思いを、誰が真っ先に爆発させるか。
だがシガラミで雁字搦めになった大人に、そんな役目はあまりにも重たすぎた。
いつ、自分が反逆者として後ろから刺されるか、それに怯えていたんだ。
社会に順応した大人たちは刺される人間にはならないし、場合によっては刺す側にだってなることも厭わない。
そんな強迫観念に捉われないのは、いつだって社会をよくも知らぬ子供だ。
例えるなら俺の弟である。
弟は市長のやり方がどう間違っているのか分かっているわけではなかった。
すると、その場に居合わせた俺ですら恐れ多いことを口にした。
「俺のやってることは差別?」
それは他の人たちも、弟に尋ねられたその人も同じだったに違いない。
その人はどう返すべきか、迷っていた。
いくら自分が関係者だとはいえ、あくまでその中の一人でしかないという自覚があるからだ。
なまじ自分の第一声が『差別』という概念を象徴するものになってしまうのも如何なものか、と感じていたのかもしれない。
だが、ここで有耶無耶になってしまうと、このバカげた政策はしばらく続いてしまう。
その割を、これ以上食わされるのは俺もゴメンだ。
それに、弟にばかり“差別主義者”を負わせるわけにもいかないしな。
二人の間に入ると、新たなアプローチをした。
「ひとまずシンプルに考えてみよう。俺たちがあなたの真似事をして、あなたは救われたのか、守られたのか。『理解をされた』と感じるか?」
設問は些か誘導じみたものだったが、その人にとって答えやすいものであったのも事実だ。
市長のやっていることがおかしいと確信に至るものであればよかった。
「うーん……全くないとは言えないですけど……そんなことで“理解”されるよりも、快適に生活が出来る環境にするだとか、ちょっと困った時に手を貸してくれるだとか、そういった“理解”のほうがいいです……」
その人の言葉は、別にこの政策の定義する差別の是非を、根源的に批判するものではなかったかもしれない。
だが、今回の政策で鬱屈とした思いを抱えていた人たちを奮起させ、団結させるには十分なものであった。
「そうだ! これは差別じゃない!」
「ああ、そうだ。仮に差別だっていうんなら、もう自分は差別主義者でいい。存分に後ろ指をさせばいい!」
人々は杖を武器へと変え、口々にこの政策への不満を吐き出し始めた。
俺はおもむろに持っていた杖を壁に立てかけ、その不可思議な光景を溜め息交じりに眺めていた。
これはこれでどうかと思う展開だが、もはや俺の頭では何が差別でそうじゃないのか、それに思考リソースを割く気にすらなれない状態だった。
ただ、まとわりついていた妙な倦怠感が、徐々に離れていく心地を味わっていた。
「貴様が遅刻とは珍しいな」 俺はウサクにその時の出来事を話す。 「それは……あの市長もまた妙なことを」 「おかしくないか? 二足歩行で歩いただけで、足が不自由な人を差別...
俺はその日寝坊してしまい、学校に遅刻しそうだった。 少し焦ってはいたが、それでも急げばギリギリ間に合うレベルだし、何より俺には打算があった。 いつもの通学路を途中で切り...
その日、友人のウサクに誘われて、俺は何らかの会場に足を運んだ。 市長が何か大事な発表をするらしいので、見ておくべきだろうとのことだ。 「お集まりの皆さん、社会に生きる...
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