少し焦ってはいたが、それでも急げばギリギリ間に合うレベルだし、何より俺には打算があった。
喧騒が煩わしくて普段は避けているが、そこの交差点を利用すれば余裕で間に合うのだ。
呼び止めてきたのは市長だった。
市長は怪我でもしていたのか、杖をつきながらこちらに向かってくる。
しかし、なぜ呼び止められたのだろうか。
「え!?」
『差別的』ってどういうことだ。
「杖や車椅子での移動を余儀なくされている、足が不自由な人もいるのですよ。だのに、あなたは公の場で何も考えず悠々と歩いている」
どうしてそれで俺の行動が差別的ってことになるんだ。
「えーと、あの、市長さん?」
「そして、自分のしていることにまるで無頓着だ。よくない、ああ、これはよくない、よくありませんよ、よくない、よくない、全くもってよくないよ」
「誤解してほしくないのですが、私は二足歩行自体を否定しているわけではありません。ですが、それができない人間の気持ちを少しは考えるべきです。足の不自由に配慮して、“歩み寄り”ましょう」
このままでは遅刻する。
俺はテキトーに話を合わせて、この場を切り抜けることにした。
「はあ、一理ありますね。それで、俺はどうすれば?」
「これです、わたしのやっている通り。杖をつくなり、車椅子に乗るなりしなさい」
俺は引きつる顔をさとられないように手で覆い隠しつつ、もう片方の手でそれを受け取る。
「どうです。これで多少なりとも“理解”は深まることでしょう」
「そうですね」
「これからもそうやって移動するように」
周りを見渡すと、他の人たちも似たような様子だった。
俺は市長のやっていることは理解に苦しむのだが、みんな何も言わないで従っている。
奇妙な光景だと感じるが、それは俺が差別主義者だからなのだろうか。
その日、友人のウサクに誘われて、俺は何らかの会場に足を運んだ。 市長が何か大事な発表をするらしいので、見ておくべきだろうとのことだ。 「お集まりの皆さん、社会に生きる...
≪ 前 「貴様が遅刻とは珍しいな」 俺はウサクにその時の出来事を話す。 「それは……あの市長もまた妙なことを」 「おかしくないか? 二足歩行で歩いただけで、足が不自由な人...
≪ 前 俺たちのそんな鬱屈とした思いを、誰が真っ先に爆発させるか。 裸の王様に、裸だと伝える必要に迫られていた。 だがシガラミで雁字搦めになった大人に、そんな役目はあまり...
≪ 前 挿入歌:「差別主義者の歌」 歌・作詞・作曲:ウサク その他 音が聞こえるか 差別主義者の音が 二足歩行のドラムが 響き合えば 足が不自由な人への 抑圧になるか 差...