その日、友人のウサクに誘われて、俺は何らかの会場に足を運んだ。
市長が何か大事な発表をするらしいので、見ておくべきだろうとのことだ。
「お集まりの皆さん、社会に生きる我々にとって重要な事柄であり、何度も取り沙汰されているにも関わらず、未だ解決されていない問題が何かお分かりでしょうか」
常套手段だなと、ウサクはニヤつきながら俺に耳打ちする。
ウサクが何をそんなに面白がっているのか、俺にはよく分からなかった。
市長のこれまでの“実績”を知っている住人たちからすれば、「これは碌なことにならない」という予感が真っ先に出てきたからだろう。
この町の市長は普段はまともな人なのだが、精力あふれる政治屋の血が流れていた。
その血が騒ぐのか、突発的に崇高な志が暴発してしまうことがある。
しかも大抵それが頭でっかちな内容なので、住人たちはウンザリしていたのだ。
そんな住人たちの警戒心を知らないのか、或いは知らないフリをしているのか、調子を崩さず市長はスピーチを続ける。
「我々は差別はいけないことだと分かっていながら、時に過ちを犯してしまいます。なぜか? それは『差別』という概念に知見が足りないからではないでしょうか」
一見それっぽいことを言っているように感じるが、ウサク曰く「それっぽいことを言っているときこそ、むしろ警戒すべき」らしい。
「我々は差別がどのようなもので、どのような問題を孕んでいるのか理解を深められていないのです。なので、ここに一つの政策を打ち出すことを宣言します。テーマは『超絶平等』です!」
ウサクの警戒心を的中させるように、何だか胡散臭いテーマを打ち出してきた。
なんで『超』とかつけるんだ……。
その後も市長は色々と何か語っているが、完全に興味の失せた俺はその場から離れることにした。
「おや、帰るのか。市長の話は?」
「興味ない」
「おいおい、まるで他人事だな」
「この手のは大局的に見ればそれなりの影響があるのかもしれないが、往々にして俺たち個々人が実感するような代物じゃない」
実際、あの市長が時々やる政策は大した成果を上げられたタメしがない。
大衆に向けた「仕事やってますよアピール」という側面が強く、俺たちの認識も概ね同じだった。
「うぅむ、貴様のその無関心ぶりはどうかと思うが、主張をあながち否定しきれないのが悲しいところだ」
マツリゴトが大好きなウサクですらこの反応である。
どうせ大したことない、俺も他の人たちもそう思っていたはずだ。
だがそれから程なくして、今回の政策は一味違っていたことを俺たちは身をもって知ることになる。
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≪ 前 俺たちのそんな鬱屈とした思いを、誰が真っ先に爆発させるか。 裸の王様に、裸だと伝える必要に迫られていた。 だがシガラミで雁字搦めになった大人に、そんな役目はあまり...
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