たまたまネットで見かけたPVを見たその日から、彼のことが頭から離れなかった。
動画を見るうちにどんどん夢中になり、今までアイドルなんて興味もなかったのに現場にも通うようになった。
はじめは気が向いたとき程度だったが、気づけば現場のために毎週夜行バスで東京と地元を行き来する生活をしていた。
CDがリリースされれば握手会や写真撮影のために同じものを120枚以上買った。
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推しは繊細な人だった。見る人によっては病んでるようにも見えるかもしれない。
元気で明るいキャラではあったが、追っていくうちに自己肯定感が低く小さなことで悩みがちだと感じるようになった。
何度も何度も握手会でかっこいいよ!今日のダンスよかったよ!と言っても、調子よく茶化されたり全力で否定されたりしてその度に悲しくなった。
ブログで活動のこと、今後のことについて悩んでいるのを見ては自分も病んだ。
でも推しのことでこんなに悩めることが幸せで仕方がなかった。
悩んで悩んで、それでも笑顔で頑張っている推しが心の底から好きだった。
繋がりたいとかそういう感情はなく、ただただ傷を隠して輝こうとする推しが人間として大好きだった。
ずっとずっと活動を休止するまで追い続けると信じて疑わなかった。
そんなこんなで追い出してから1年半ほど経ったぐらいから、推しは活動の幅を広げていった。
もともと所属していた別のグループでアイドルしてではなくイベントをすることも多くなっていた。
このころから以前に比べて病んだり悩んだりといった発言が少なくなっていった。
本当にアイドルとしてではない活動が今のやりたいことであると伝わってきた。
それがどうしても許せなかった。私は葛藤しながらもアイドルとしてステージに立つ推しのことが一番好きだったのだ。
自分が一番好きな推しは、彼にとっては一番好きな自分ではないことがたまらなく悲しかった。
周りの道丹は他グループの現場にも足を運んでいたが、私はついに一度も行かなかった。
気づけばあれだけ毎週通い詰めた現場にも行かなくなっていた。
推しを作る気はなかったが、明らかに私はそちらに心が向いていた。
でもあれだけ好きで時間もお金も費やした推しから心が離れているのを認めたくなくて、周りのオタクには忙しいから行ってないだけで他界も推し変もしないと強がっていた。
私が彼を推す前から彼らが目標にしていた大きな舞台でのライブがあった。オタク仲間から誘われ、当日券も出ており、何度も行こうと思ったが、結局は行かなかった。
私が好きだった推しとは変わってしまった推しがそこにいたらどうすればいいのだろうと不安だった。
もう好きなふりはできないと思って、大きなライブが終わった次の日に私は上がるともなんともつぶやくことなくtwitterのアカウントを消した。
今にして思えば、推しが幸せそうなのを一緒に喜んであげられなかった時点でオタクする資格はなかったと思う。
最後まで見届けられなくてただただ申し訳ないが、推しの今後の活躍を祈っている。
もしこれを読んでいる中に3次元の推しがいる人がいたら、推しの幸せは全力で喜んであげてほしい。
私も次に推しが出来たら、今度はちゃんと推してあげたいと思っている。