こうして書き起こされた歌詞だったが、弟たちの予想を悪い意味で裏切った。
やたらと詩的で難解というわけでも、かといって下品で低俗な歌詞でもなかった。
「フュ○メッ△ゲ語は覚えやすく、分かりやすく、使いやすいよう開発された共通言語だ。誰が翻訳しても、ほぼ同じになるよ。解釈が分かれるような文法や表現があったら、異星間での会話にトラブルが起きるかもしれないからね」
「凡百のJポップでも、もう少しマシな表現で取り繕っているぞ」
「あと、ボーカルは恐らく合成音声だね。それにイントネーションが、ボクの時代のフュ○メッ△ゲ語の教材映像のように忠実だ」
「一応フォローしておくと、コード自体はとてもキャッチーだよ。フュ○メッ△ゲ語は覚えやすいための一環として、非常に小気味よい単語が多いし」
いや、それは多分、みんな何となく分かってる。
ガイドの発言は、ここまで探し求めてきた弟たちにとっては無神経なものではあったが、俺は何も言う気にはなれなかった。
弟たちにとっては待望の知見であったが、その後で仲間たちと話し合った結果、この音楽の歌詞は秘密にしようということになったらしい。
この曲はそれでいい、と弟たちは思ったのだろうか。
とはいってもタイナイはスマホ片手に雑談を交えてという、ほとんど遊びにきたようなものであったが。
「このアイドルグループの歌詞って、正直つまらないからなあ。世界でウケるもんなのかなあ」
「へー、ほーん」
だが、同じ部屋にいた弟の癇にさわったようで、タイナイが続けて語ろうとするのをぶった切るようにして話に入ってくる。
「あんたの気にしている“世界”ってのは、一体どこの“世界”なんだよ」
そう吐き捨てるように言うと、弟は部屋から出て行ってしまった。
「え? え? どういうこと、マスダ?」
そして、なぜか俺に尋ねだす。
「“分かるからこそ見える世界”があるように、“分からないからこそ見える世界”ってのもあるんだろう。たぶん」
仕方なく、俺はそれっぽい答えを返した。
「うーん?……」
「まあ分からないなら、それはそれでいいんじゃないか。そういう話だ」
タイナイは要領を得ない様子だった。
まあ、俺も理解させるつもりで答えたわけじゃないので当然なのだが。
「じゃあ……君はどうなの、マスダ」
「どうもこうもねえよ。是非もなし、だ」
音楽に何を求めるかってのは様々だ。
だが、それらを深く考えないまま享受する人間だっているのである。
着いた場所は、人通りの少ない場所にポツリと一軒家が存在しているという不気味ものであった。 そこそこ都会だと思っていた俺たちの町に、こんな閑散とした場所があったこと自体が...
だがそんなことを口にすれば、弟たちは俺を巻き込んだ上で面倒くさいことに発展する予感がした。 なので知らないフリを決めこうとしたのだが、弟の仲間の一人であるドッペルは目ざ...
調査から数時間、弟たちは行き詰りを感じていた。 「んー、何でみんな曲は聴いたことあるくせに、歌詞は知らないんだろう」 「ここまで知らない人ばかりってのは変だよ。みんな気...
音楽というものは俺たちにとっても馴染み深い文化だ。 そして、時に人は音楽というものに何を求めるか、それは何かであるかということで苦心する。 個人が望むと望まざるとかかわ...