「んー、何でみんな曲は聴いたことあるくせに、歌詞は知らないんだろう」
「ここまで知らない人ばかりってのは変だよ。みんな気にならないのかなあ」
今のままではロクに成果を上げられないか、酷く時間がかかると感じ始めていた。
何らかの打開策が求められていたのだ。
ミミセンの提案に一同はうなずく。
「私も賛成だけど、具体的にはどうするの?」
「僕たちだけじゃ情報を集めるのも、その手段にも限界があると感じた。だから、もっとそれが上手い人に聞けばいいんじゃないかな」
「なるほど……でも、それって誰だ?」
「マスダの兄ちゃんのクラスメートに、タイナイって人がいるだろ。あの人はインターネットをよく利用するらしい」
「僕たちの調べ方はすごく初歩的だっただろ。でもその人なら、もっと上手く調べてくれるんじゃないかな。或いは既に調べ済みかも」
「よし、分かった。その人に尋ねてみよう」
家を訪ねると、タイナイに用件を話す。
「ふーん、なるほど。それで、なんて曲なんだい」
曲のタイトルすら分からないため、これが最も手っ取り早かった。
「あー、これか。僕が小さい時にも流行っていたなあ」
「じゃあ、その歌詞が何かって分かる?」
「それが……分からないんだ。というか多分、誰も知らないと思う」
「この音楽が流行った時にもね、この歌詞を翻訳しようとしたんだ。
でも聴いたら分かる通り、文字に起こすのも難しい代物だったんだよね。
そこで絶対音感の人たちを集めて、文字に起こしてもらうという企画が立ち上がった。
それで文字に起こすこと自体は成功したんだけど……その歌詞はやっぱり意味不明だった。
何らかのアルゴリズムで作られた架空言語なのか、ボーカルの歌い方のクセの問題なのか、結局は分からずじまいとなった。
で、その時の最終的な結論としては、この歌詞は何か意味の通ったものではなく、デタラメなものだったということになったんだ。
だからその後も、みんな何となく、歌詞も、そしてその意味も分からず歌っていたんだよ」
弟たちは、煮え切らなかった。
「なーんか、納得いかないんだよなあ」
弟たちはそのことを俺に愚痴っていた。
「そんなこと言っても、一応の結論は出たんだろ。お前たちがいくら文句を言ったところで何も変わらんぞ」
「何か……何か、まだありそうな気がするんだよ。この歌には」
俺は途中、言いよどんだ。
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