着いた場所は、人通りの少ない場所にポツリと一軒家が存在しているという不気味ものであった。
そこそこ都会だと思っていた俺たちの町に、こんな閑散とした場所があったこと自体が驚きである。
というか、シロクロなら本物の廃屋に住んでてもおかしくないイメージがあるから、なおさら身構えずにはいられない。
だが弟たちは怯むそぶりもなく、シロクロについて家に入っていく。
ガイドがいるという部屋の扉を、シロクロは勢いよく開ける。
部屋の中は意外にも普通であり、想定の範囲内の家具が、想定の範囲内の場所に置かれているのみである。
そして、その部屋の真ん中でガイドが佇んでいた。
ガイドは慌てた様子で、部屋の中を観られたくないのか俺たちを遮るように近づいてくる。
貼りついたような笑顔で取り繕うが、俺の顔を見た途端にバツの悪そうな顔になる。
「マ、マスダ……どうしてまた」
「俺だって関わらなくていいなら一生そうしたかったさ。今日は付き添いだ。弟たちが用があるみたいでな」
「これは……フュ○メッ△ゲ語に限りなく近い。こんな時代からあったなんて新発見だな。アーティファクトなのか、未来から何かの拍子でこの時代に流れてしまったのだろうか……」
弟たちは色めきだつ。
ダメでもともとだったが、ガイドから意外な答えが返ってきたのだ。
だが何語なのか、上手く聞き取れない。
「フュル……メレンゲ?」
「フュ○メッ△ゲ語だ。どうやら、この時代の人たちではネイティブに発音するのは難しいようだけど」
「これは共通言語のひとつだね。主に異星間で用いられる言葉だから、この時代の人たちでは解読すら困難だろう」
「それがフ……フュ……」
「フュ○メッ△ゲ語」
まあ、何語でもいいが本題だ。
「……本当に知りたい?」
なんだか不穏当な問いをガイドは投げかけてきた。
「俺たちにそれを教えることで、未来に何か不都合でも? それとも、お前自身も実は分からなくて誤魔化してるのか?」
「本当、君は疑り深いね。そもそも自分は過去に干渉をするためにここに来ているんだ。だから、これもその一環になりえる。そして歌詞の翻訳だが、勿論できるよ」
「じゃあ、何が問題なんだ」
「この曲は流行ったこともあって、広く普及しているものらしいじゃないか」
「そうらしいな。それがなんだ」
「つまり歌詞の意味が分からなくても、この曲の良さを感じ取っているってことだよね。でも、それは歌詞の意味を知っても不変たりえるものかい?」
「なんだ? 実は酷い歌詞ってことか?」
「いや、全部しっかりとは聞いていないから、これからさ。けど、もし鬼が出ても蛇が出ても問題はないのか、確認はしておくべきだと思ってね」
「未来人のくせに随分とナンセンスなことを言うんだな。そんなの“やってみなくちゃ分からない”だろ」
弟たちの意志は揺らがない。
ここにたどり着くまで散々遠回りをした。
今さら、うやむやにするというのは、弟たちの答えではないのだ。
「……じゃあ、翻訳してみるよ」
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